発表会

ちびさん、立っていた!
それだけでいいや。

昨日、音楽教室の発表会。平和公園内の大きなホールで。
年少さんのグループは、一番最初。それから最後のフィナーレ。
リハーサルのとき、ほかのお母さんたちは、客席にすわっているが、私だけ舞台まで、付添い。舞台の上では、先生がちびさんの後ろにすわって、体をささえている。舞台の下では私が、白線から出るな、と言い聞かせている。ほかの子たちは歌っている。ちびさん歌わない。立ったりすわったり、くるくるまわったり、百面相したり、している。あんまり面白いので笑った。
楽屋から席に帰るまでの通路がこわかったらしい。本番も、ママといっしょに行くと泣くので、また付添い。楽屋には順番待ちの子どたちがたくさんいる。ちびさん、走って逃げだす。おいかけてつかまえる。

さて、舞台。16人の子どもたちが一列に並ぶ。はしっこにいるちびさんの横にスタッフのような顔をして私はすわっていた。本番はマイクがあるが、ちびさんマイクをにぎったまま、(お客さんいるので緊張したのか、百面相したりする余裕はなかったらしい)ひとことも歌わずカスタネットも叩かず、立ちつくしていた。ときどきふにゃふにゃすわりこみそうになるのを、尻を叩いて立たせる。なんとか、立っていた!

出番のあと、みんなで写真をとる。のだが、ちびさんまた逃げ出す。おいかけてつかまえる。みんな大人しく待っていてくれる。ちびさんもどってきたが、体をゆらしたり、そっぽ向いたりするので、なかなか写真とれない。「もう一枚」「もう一枚」を10回ちかく繰り返していたよ。カメラマンのお兄さんと顔見知りになってしまった。
音楽会の間、客席の階段と通路をひとりで行ったり来たり、寝ころんだり、ケロロのマーチが演奏されたときには興奮して跳びはねたりして遊んだ。

最後のフィナーレはまた、私が付添い。「おかあさん、うしろの子どもたちみといてもらえますか」と先生。「わかりましたー」みたいなことで、ちびが逃げ出さないように見張りながら、他の子たちの相手もする。
舞台で、ほかの男の子が私のところにやってきて泣きじゃくるので、舞台の上からおかあさんを手招きする。おしっこなんだって。ちびさんはまた、マイクを持ったまま突っ立っている。しかしまあ、立っていた!
終了後の混雑のなかで、勝手に走り出したちびさん、迷子になって泣きながら入口にもどってきた。

ということで、くったびれた。がんばった?ときくと「がんばらなかった」とえらく正直。歌いも踊りもしないのに、「おんがくきょうしつつづけるの」とかたくなな意志表示である。
鍵盤にさわるのは楽しいみたいで、一曲だけ、16小節くらいの、習ってもいない曲を右手で弾けるようになっている。何度か聞いてよっぽど気にいったらしい。階名を教えたら、楽器のないところでも、右手の指で左手の指を、ミドミドラーとか言いながら、つんつん叩いて「ゆびピアノなの」とか言っている。紙ピアノつくってあげるよ。

家にいるときは思わないが、集団のなかにいると、なるほどこの子は自閉症なんだろうと思う。ほかの子どもたちと同じ場所にいるのに、違う世界にいるような感じ。突然勝手にそれもすごいスピードで走りだしたりすることは、幼稚園にも伝えておかなければ。でも加配はつきそうにないし、ということは、この調子だと私が付添い通園の可能性もありだなあ。

自分が子どもだったころのことをしきりと思いだす。よく似ているのだ。幼稚園で個人写真をとるときに、大泣きして、泣きはらした顔で写っていること。集合写真で、目を閉じている写真は、嘘みたいに、ちびさんに似ている。じっと並んで立っていること、目を開けていることがとても難しかった。
小学校にあがるのに、人見しりも場所見しりもあんまりひどいから、勉強の雰囲気に慣れさせようと、母の知り合いの塾に連れていかれたとき、3度も逃げ出したこと。3度目は家と反対方向に逃げ出した。
小学校の古い校舎の宿直室の押入れから天井裏にのぼったり、講堂の床下にもぐったり。木登り、火遊び、資材置き場の秘密基地。ああ、よく無事で。
休みの日に忘れものを取りに学校へ行ったものの、職員室に入るのがこわくて、教室の鍵を取りにゆけず、通気口から教室の床下にもぐって、床板がはずせないかと思ったけど、はずせなかったこと。
遠足で山にのぼったとき、山道で迷って(前の人が左の道を行ったのに、右の道を選んだのは私だ。あとから10人ほどついてきた)、みんながバスで帰った道を、私たち10人ほどだけが、隣町から半日歩きとおして帰ったこと。新しい靴だったのに、すっかりすり減っていた。

いまとなっては笑い話なんだが、過去の話だから笑えるんであって、そういうことを、ちびさんこれからやらかすかもしれないと思ったら、ちょっとぞっとする。過去が未来になってあらわれるかと思ったら。
めまいがしそうである。
「希望の樹、しっかりと立て!」