小さい家

昨日の上映会。
寒かったせいか、スタッフも入れて10数人という集まりだった。
これでは経費が出せないだろう、スタッフが身銭を切ったのではないかと思っていたら、見銭を切ったのは、東京からはるばる夜行バスでやってきた監督だったらしいとあとで聞いて、すこし胸いたむ。
だってものすごくいい映画だったし、監督の話もとてもよかった。

「アボン 小さい家」
この映画見ないと損。機会あればぜひ。

フィリピン北部の山岳地帯、バギオに昔日本人街があったことは聞いたことがあるが、日本からの移民の歴史や、戦争、その後の日系人の置かれた状況などは、まったく知らなかった。
山岳少数民族のなかで生きている日系人一家の物語。一方には、電気も水道もない、昔ながらの自給自足の暮らしの幸福があり、一方には、金が必要で、そのために海外に出稼ぎに行く(家族が離れ離れになる)という現実がある。

7年がかりの映画。シナリオがすごくいい。
いろんな問題を考えさせる映画なのだが、映画そのものは、「問題」ではなく「存在」を伝えてくる。「イメージの力」というのを思った。

この映画、マニラでは受けなかったが、バギオではおおウケしたらしい。都市の人々から一段下に見られる少数民族の人たちにとって(さらにそのなかで「ハポン」(日本人)とからかわれている人たちにとって)自分たちの物語があるということが、どれほど嬉しいかということを、思った。自分たち自身の物語があるということはものすごく大事なことで、人間の尊厳にかかわってくるが、文学や映像の「イメージの力」はたしかにそのような尊厳に寄与し得るのだ、と思った。
この映画も。

主役の日系人の男のオーディションをしたとき、人相の悪いのばかりが集まった、という話も面白かった。フィリピンの映画やドラマで、日本人は悪役であることが多いのだ。それで主役は、フィリピン人の有名な俳優に頼んでギャラが高かったのだが、製作費がなくなったとき、半額にまけてくれたらしい。

金があることが豊かなのではない、という非常にシンプルなメッセージ。
植林の苗木を育てるおじさんが、虫に食われた松の苗木を一生懸命に励ましている言葉は美しいし、村にもちこまれる洗濯機などの電化製品は異様な物質に見える。

ある部族には、「ありがとう」という言葉がないらしい。かわりに「恩を借ります」という言葉がある。川で魚を捕まえるときも森に入るときも。「恩を借ります」。その言葉には、恩を返すにはどうすればいいか、ということを考えながら生きていくという姿勢がある。それが、人間の文化の根っこにあったものではないか、という話が心に残った。


私は会場の隅で店開きして、フィリピン小物の残りで、ちゃっかり4500円儲けた(ゴミの山の学校への寄付ね)。上映会に便乗させてもらったのですが、本当にありがとうございました。