リモコン

ここは電波がよく入らないのでケープルテレビにしている。ケーブルがデジタル対応をしたので、うちのテレビもデジタル対応になった。半年くらい前かな。するとリモコンが、たくさんボタンがあって、私はもう何が何やら。おっかないので触らない。

恐れ知らずに触りまくるのはちびである。生意気に番組表も読む。お気に入りはカートゥーンネットワークというアニメ専門チャンネルで、リモコン抱きしめて、ときどきそれを齧りながら(リモコンにはすでにちびさんの歯形が)、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、上機嫌で見ている。
ほっておくと一日じゅうでも見るから、今日は何時から何時まで何という番組を見るのだと、自己申告させて、それを守らせるようにしているが、あんまり守らん。
器用にリモコン操作して見ているが、やっかいなのは、触る必要のないボタンも押しまくることだ。番組予約、とか、設定、とか。それで変なことになったりして、その度にパパに叱られている。
「リモコン捨てる、テレビ捨てる、それともおまえを捨てるか」と叱られて、その度に、捨てないのー、と泣いて、で、懲りない。

数日前、テレビが動かなくなった。ちびさん、リモコン触っていて、こわしたんである。デジタル対応しなくなった。
ちびさん、玄関先まで、パパに引きずられていって、また捨てられそうになった。「イノシシのとこに行くか、鹿のとこに行くか」「どっちもいやあー」

ちびさん、設定ボタンをいろいろ押しまくって、リセットしてしまったらしい。で、なんでそうしたかというと、契約していない電車の番組を見たくて、どうかしてその電波を呼び寄せようとしたらしい。
「契約していないのに、番組を見るというのは、お金を払っていないのに、ぬすんで帰るのと一緒だ、おまえはどろぼうか」
とパパに叱られているのだった。

そういうことが全然わかんない私が、ちびが何を試みようとして何を失敗したかについて、パパに説明してもらっている間、ちびさん机に向かって、飾っていたクリスマスカードの裏の余白に何か書き出した。
それでもってきた。
「どろぼうじゃないよ~」
と書いてある。

どろぼう、の一語はこたえたらしい。なんかおかしい。

せっかく壊れたんだし、自分が壊したんだから、この際、しばらくテレビなしにすればいいよ。最近テレビ見すぎだもん。
と私は主張したのだが。
修理代はりくに払わせる、と言いながら、次の日にはもうなおしてもらっていた。そのとき、りくが修理に来たおじさんに貯金箱を差し出したのが、たいへんかわいらしかった、とパパは言っていた。 でも修理代は引き落とし。

で、テレビがなおった翌日にはもう、ちびさん、また何かいらんボタンを触ったらしく、チャンネルが変わらなくなって、またパパに叱られている。「ぼく、こわしてないよ」とちびが言うので、「りくがやったんじゃないかもしれないよ」と私はかばってみたが、「こいつのほかに誰がおるんや」と言う。「うーん、リスかも」と言ったら、「ばかか」と言われた。でもウィルスが勝手にリモコンのなかを走りまわったりするかも。
やがて、理由がわかる。ちびさん、また設定ボタンのあれこれをいじったのだ。

もちろん、彼は、「こわす」とか「うごかなくする」ということはしていない。彼がしたのは、「ボタンをおしてみる」ということだけだ。

一段落して、お茶飲みながら、パパが言った。
「おまえなあ、そうやって男にだまされてきたんやろなあ。息子にだまされてどうするかあ。6歳の子どものたくらみも見ぬけんでどうするかあ」

ああ、どうしよう。

で、いまいましいテレビとリモコンなのだが、昨日はまた、ちびさん片づけもしないでテレビ見続けているので、私がブチ切れた。「約束と違う。りくがテレビを見ると言った時間はもうとっくに終わってる」
あと30分だけ、あと15分だけ、と粘ってみたが、ゆるしてもらえないとわかると、ちびさん、テレビを切って、机に向かって何か書き出した。四角い紙きれに漢字で「中止」と書いてある。
その「中止」の紙切れをセロテープで、テレビの画面に張り付けた。
「ママ、もうテレビ中止だからね」
なんかなんか、自滅的な行動に出る子どもである。
それでもってけらけら笑っている。

「中止」

まだ貼ってある。
そろそろ幼稚園から帰ってくるけど。ちびさん、これどうするんだろうなあ。