「ぼくんち」

西原理恵子ぼくんち」読む。

子どもの頃に見てきたものの、あれこれを思いだしてうなされる。
貧困、暴力、喧嘩、失業、博打、酒浸り、病気や心身の障害をかかえた隣人たち。

世界中のスラムでこんな光景はあるだろうなあ。
と思えば、世界標準である。「ぼくんち」の世界。

兄が、博打で借金しあげて、ヤクザに追い回されていたりとか、行方不明になっていた弟が、刺青して小指なくしてあらわれたりとか。そういうこともあったのだ。
酔っ払って、ドブにつっこんで死んだ近所のおじさんとか、母が食事をふるまっていた物乞いのおじいさんとか、こわれかかった家に住んでた知的障害ありそうなおじさんとか。裏の家の夫婦喧嘩。藁に還元しかかっていた畳。喘息のおばさん。船乗りの奥さんの不倫。クスリでらりっていた近所のお兄さん。夕方、化粧して仕事に行くお姉さんたち発達障害の子どもたち。小学生の喫煙。上級生への集団暴力。
クラスの3分の1以上が、母子家庭か両親のいない家だ、どうなっているんだ、この地域は、と新しくやってきた担任が、言っていたのは(そんなこと言っていいのか)小学校6年のときだったが。
「ここは地獄です。とにかくここを出ていきたい」と、進学して故郷を離れた私に、手紙を送ってきた年下の幼馴染。

これなあ、おまえの父ちゃんの喋り方のイントネーションで読むと、ぴったりはまるなあ。
と、パパが言う。たぶん、そんなに遠くない土地の話やもん。

過激なデフォルメのように見せかけていても、むしろ、ありのままの不幸だろう。腹にこたえるリアリティだった。
見開き2ページの話で、16枚とか30枚の短編小説できるんじゃないかな。こんなにネタを出し惜しみしなくていいのか、というような、ぜいたくな本。

船がゆくなあ。

そうしてとにもかくにも、歳月は過ぎているのだった。