母と息子と反抗期

「ぼくは、そろそろ反抗期かな」と息子が言う。
なんで? 
「だってYくんも反抗期なんでしょ」と同い年の友だちのことを言う。
なるほど、こないだ、Yくんママが自分の息子について、
「こいつもう死んでくれ、と思う」などと言うのを、目撃したからね。
その傍らでYくんは平然としていたんだけど。
息子は驚いたかもしれない。
あれは、Yくんママが、Yくんのことで心配させられすぎて、もうとてもしんどい、ということなんだと思うけどね。なんで心配するかって、愛情でしょう、それはやはり。

あのとき私が思い出したのは、死んだ祖母のことで、叔父と一緒に暮らしていた祖母は、叔父のことを、
「はよ、死ね」とずっと言っていた。
それは叔父が何かするからというわけでなく、むしろ何もしないからで、黙って酒だけ飲んでいる、その黙りんぼが、祖母には気に入らないわけだった。……相性の問題ですかね。
でも叔父は、一番心配かけたのは自分だから、自分が祖母をみると言って、祖母が94歳か96歳で死ぬまで、たぶん30年くらい、ずっと一緒に住んでいたのだった。祖母が死んだあと、叔父はようやく10歳ほど年上の恋人と一緒に暮らして、その恋人が亡くなるのをみとった。

いろんな母と息子があるものだ。

「でもぼくは、反抗期できないかもしれない」と息子が言う。
なんで?
だって、………。

つまりこういうことらしい。
ママに何か口答えしたり、乱暴な態度をとったりすると、パパが来て凄む。
「おまえ、わしの女に何するんなら!」
わが家はそれで終わるのだ。

あるとき息子は言い返していた。
「ぼくの女なんだけど」
………。

あのさ、来世のことだけど、恋人の予約はしといてあげるけど、こうみえて、ママはモテるからね。ライバルたくさんいると思うから、せいぜいきみは頑張りなさいね。