夕凪

「夕凪って何」と息子が聞く。夕凪を知らないか。
 広島の夏の夕凪なんて、発狂もんだったよ、と昔、学生だった頃から10年間、河口のほうで暮らしていた頃に、エアコンもなくて、窓は西窓、夏の夕方、風が全然吹かない。扇風機は熱風をかきまわすだけで、役に立たない。そのうち煙を吐いて壊れてしまう。暑すぎて気分わるくて勉強できない。何にも考えられない。部屋は、夜になっても熱が去らないし、身のおきどころなくて、夜、川縁の道をずっと海のほうまで、歩いたよ、と思い出したりする。

そういえば、真夜中によく川土手でデートしたよねと、真っ暗な水の流れと草のゆれるのとを思い出したりする。お金なかったからな、と思ってふと、わからなくなる。 だれと一緒だったんだっけ?

 パパだっけ、そのような気もするけど、そうでない気もする(ので、確認しないことにする)。いずれ三択か四択で、もしかしたら複数回答もありかもしれないんだけど、黒い水面を眺めていたこととか、手で触った土の感触とか、対岸の街の灯とか、そういうことは生々しく思い出せるのに、横にいたはずの男のことは思い出せないよ?

だって夜だし、暗いし。(という問題でもないか)

たぶん、そんなだから、いろいろ怒らせたりしたんだろうな。(これは全部の選択肢に○がつくとおもう)
なんで怒るのよ? だって夜の川を見せたいから連れてきたんでしょ。私は一生懸命、見たよ? というのが私の言い分だけどさ。
デートの目的はそういうことでもないらしいということは、ずっとあとまでわからなかった。

谷山浩子の「河のほとりに」を思い出すけど。  
「ずっと昔から知っていたような、そんな気がするあなたが好きです♪」
いい歌詞だけど。川のほとりに一緒にいた「あなた」が誰かがわかんないわけよ、っていうか、だれでもいいよ、っていうか。

最近、ママの若いころのことを知りたいって、息子が言うようになり、いやです、話したくない、と私は思う。
 「だって、ぼくはママを好きなんだよ?」
 好きでもどうでも。 エアコンのない夏を過ごしたことのない子どもに、あの夕凪は伝えられないし、知らないほうがいいこともたくさんあるよ。

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昨日参観日。教室に貼ってあった絵。電柱のある風景。それから彼は、プールで、10メートル泳げるようになったらしい。泳げない順からABCDの4つのグループに別れてプール指導あるらしいんだが、10メートル泳げたので、AからBになったんだって。よくがんばりました。