百円の恋

日本アカデミー賞。「百円の恋」という映画が、最優秀主演女優賞安藤サクラ)と最優秀脚本賞(足立紳)を受賞したらしい。機会があったら観たいな。脚本賞は、第一回松田優作賞グランプリ作品。この松田優作賞を仕掛けた人の話をせんだって耳にして、その情熱をいいなと思った。
http://100yen-koi.jp/

それでふと思い出したのが、2008年の秋に、広島駅で出会った、松田優作の友人だったというおじさんのこと。探してみたら記録していたので、コピペします。松田優作賞(脚本賞)ができたこととか知ってるかな。
名前も知らない一期一会のおじさん。お元気でしょうか。

☆☆☆以下再掲。

朝、待ち合わせの時間より30分ほども早く駅についた。駅にはいろんな人がいる。酔っぱらって地べたに寝ているおじさんと、そのおじさんを、そこから排除しようとするおじさんが、汚い広島弁で言い合っていたりする。コップ酒飲みながら、それを見ているおじさんが、「おもしろいよ、なあ、おもしろいでしょう」と私に話しかけてくる。目があったら面倒だ、と思っていたのに、目があってしまったのだった。 

それから話が長くなる。「リヒテンシュタインって知ってる? さっきリヒテンシュタインから来たって女の子がいてさあ、ひとりでだよ、これから宮島に行くんだって。それから京都行くんだってよ。京都だよ。いいなあ。京都。源氏物語千年紀だよ。おねえさん、源氏物語読んだ?」 
学生のときに、読みかけて挫折しました、というと、 
「ふつう、そうだよな。でも現代語訳いろいろあるでしょう。谷崎とか与謝野とか。おれ、いま読んでるの、寂聴だけどさ。」 
からはじまって、日本の女流文学の話だ、 
たけくらべ書いた、ほら樋口一葉さん、あれは凄いよ、はやく死んじゃったけど、彼女はほんとすごいよ」 
一葉日記いいですよね、と私が言ってしまったりするので、また話が長くなる。 
「いいよお。若くてさ、女性でさ、すごい気概だよ」 
一葉日記のことなんか、どれくらいぶりに思い出したろう。と、なんとなく私も話にひきこまれている。 

山口県のひとらしい。年は60。某進学校の演劇部だったらしい。「青春の門」の映画の大竹しのぶを「凄い女優さんだよ。年とるほど凄くなるよ」からはじまって、松田優作の話になる。友人だったんだそうだ。 
「優作は、凄い俳優だよ。どんどん凄くなってったよ。おれ、ジャズ喫茶やってたのよ。店に優作くるのよ。それでピンク電話からさ、ピンク電話よ、あのピンク電話からさ、東京に電話かけるわけ。電話の向こうで、子どもの泣き声してたよ。あの子らが、俳優になっちゃったもんなあ」 
「おふくろがさ、病気で寝てるわけ。おれ面倒見てたんだけどさ、優作きてんだっていっても、ふうんそうかって、そんだけなのよ。それがさ、あとから戸を開けてやってきて、優作に向かって、あたしは、あんたのファンだ、っていうわけよ。すると優作が、ははっ、って頭下げてさ、ありがとうございますっ、ってこうよ。それで、店が終わったあともおれたち朝まで遊ぶわけ。何して遊ぶと思う。連句するのよ、俳句よ、俳句。おれ、詩人だからさ、もともとは歌人だけど、朝まで優作と、ずっと連句して遊ぶわけ。面白かったなあ」 

時間がきたので、もう行くね、というと、「話ができて楽しかったよ。源氏物語読みなよ。寂聴のでいいからさ」とあとから声が追ってきた。