卒業旅行?

電車で行こう! という本があって、ぼくたちも電車で行こう!をしてみたいと男子たちは思ったわけだった。卒業旅行に宮島に行くということになり、男子6人+だれか大人(だれもいないから私)で行くことになった。朝7時学校前集合の予定が、10分前集合5分前行動、とかで6時45分集合になっていた。学校行くより早起き。喜々として集まって、たちまち走り出す。次のバス停まで(バス停一つ分20円の節約)。私は走りたくないっ。

6人の顔ぶれが面白い。委員長のKと電車好きのK、幼稚園から一緒のMと、ムーミン。この4人はよく知っている。もうひとりのO君ははじめまして。本当は8人来るとか、女子も2人くるとか言っていて、総勢10人とか言っていたが、結局6人で落ち着いたらしい。  面白いのは、このクラス、徒党を組まないのだ。息子がムーミンとのつきあいに疲れて、絶交するって言ったのは秋だが、すると、ムーミンのいないすきまから、新しい友だちが見えてきた。途方に暮れたムーミンのほうは、ほかの男子たちが手分けしてつき合うようになって、ムーミンも落ち着いたし、すると息子もまた、余裕をもってムーミンとつきあえるようになった。Mは人づきあいの上手な子だし、ふたりのKは聡明な子たちだが、環境も学力も性格もてんでばらばらな6人が、一緒にいる感じが快いのがよい。

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バスと電車とフェリーを乗り継いで、宮島まで。着いて、あっちこっちのお土産屋をのぞいたり、ガチャをしたりしながら、水族館へ。水族館は面白いなあ。おさかなさんたちも面白いが、私は男の子たちを観察するのが面白い。アシカショーで、アシカに輪投げをして上手にできたお礼に(?)アシカにキスしてもらった電車好きKくんのひきつった顔とか。
お昼ごはんも水族館ですませて、外に出て、まず向かったのは、途中で見つけておいたガチャで、新幹線のピンが出てくるのを、何度もやっては交換しあったりしていた。男の子たちのお金の使い方は、ほとんど理解できないが、口出しはしない。帰りの交通費だけは残しておきなさいねとは言ったが。実に楽しそうに無駄遣いしていた。ガチャはまだしも、わからないのは、刀。玩具やキーホルダーになってるやつ。なんでそんなもんがほしいかな。

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引き潮で、鳥居の近くまで歩けそうだったので歩く。歩けそうだったので歩くが、男子たち途中で走り出して、階段じゃないところ、崖のぼりをはじめる。砂浜では、ブロックをよじのぼって遊ぶし、ひとりは海のなかに海藻を拾いに行く。道端で、甲冑を着せてくれて、侍ごっこをさせてくれるということをしていて、息子とムーミンの姿が見えなくなったと思ったら、ふたり、そこにいた。

そのあと、帰りの時間まで1時間半ほど、どうするのだろうと思っていたら、男子たち、砂浜でチャンバラごっこをはじめた。  彼らの言い方では、「撮影」である。DSなどでコマどりをする。監督ひとり、カメラマンひとり、残り4人が俳優で、チャンバラごっこ、ときどき鬼ごっこ、を役を変わりながら、えんえん1時間半、遊んでいた。 お店で買った土産物の刀は、なぜかすぐ壊れる。あー、不良品だ、言って交換してもらってくる、と言うが、たぶん、飾りようにつくってあって、チャンバラごっこ用にはつくってないと思うし、チャンバラごっこしたあとに、壊れたって言っても駄目だと思うよ。壊れたこともいい思い出だよ、と言うと、そうだよねと納得して、また新しいのを買ってくるのだった。ムーミン薙刀まで買ってたな。 切られたら、倒れて死ななければならないので、いつしか砂まみれ。最後の撮影は、「虫の息の戦いをやってみようか」と監督の電車好きKが言うのが、なんかもうおかしかった。  
男子たちが、砂浜で遊んでいる間、私はコンクリートの上で、風に吹かれて荷物番。ポケットには時計とかメダルとか預かったのをじゃらじゃら入れて、ひたすら荷物番。……女子は一緒に来なくて正解と思う。つきあえるか、こんなの。
しかし、男子たち、ほんとに楽しそうに、砂の上を走り回り、転げまわりしている。なんというか、なんというか。

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さて、楽しく遊んだ帰り道、乗換の駅で、私だけ寝ていて、降り損ねた。座る場所がなくて、子どもたちからすこし離れたところにいたせいだけど。幸い近くの人が気づいて起こしてくれて、次の駅で引き返したので、10分後には合流できたんだけど。
その10分が大変だったらしい。息子がパニック。Mくんの携帯で、パパに電話をしたが、パニックで声が出なかったので、かわりにMくんが話してくれたらしい。

「今日はものすごーく楽しかったよ。駅員さんに笛を鳴らされたことをのぞけばね」(ホームに降りて、私がいないのに気づいて、電車の近くであたふたしていて笛を鳴らされたのだった)と、しつこくしつこく言っていたが、ついにパパに言われていた。  
「ママが役に立たないことはわかってるじゃないか。夏休みに城崎温泉に行く時に列車に乗り間違えたのはママなんだろう?  そういうママを連れていくっていうんだから、おまえがしっかりしなきゃ」
息子、黙る。ほんとにごめんね。ま、それもこれも含めて、いい思い出だよ。

別れ際、今日の記念に、みんなが息子のために内緒で寄せ書きしてくれた色紙をくれる。中学が違うから。別れることを誰かがさびしがってくれるなんて、息子は夢にも思わなかったろう。「道を間違うなよ」と委員長のKが書いているのがおかしい。  
子どもたち、「楽しかったねー、また行こうねえ」と言いながら、別れていた。また行くのか。次は子ども料金じゃないよ。

「ほんとに楽しかったよー」と言いながら、息子は寝た。私はほんとに疲れたよ。