『わたしたちの涙で雪だるまが溶けた(子どもたちのチェルノブィリ)』③

『わたしたちの涙で雪だるまが溶けた(子どもたちのチェルノブィリ)』③

第三章 これもだめ、あれもだめ


☆エプゲーニ・ペトラシェービッチ

「罪深いチェルノブィリは、とうとう僕にも甲状腺の病気をもたらしてしまった。今後、どのようになっていくのか、予測はできない。」
「僕たちは何のために生きているのだろうか。森の中に入るのは禁止。草原で遊ぶのも禁止。魚釣りも禁止。しかし、生きることは許可する。人間の命はなにものにもまさり尊いと言いながら、農村の子どもが自分の血で喉を詰まらせている。ナローブリャの男の子が授業中に気絶する。ブラーギンでは先生が女の子の出血を止められないでいる。なぜ、こうしたことに目をそむけるのだろうか。」

「そこには学校でおこなわれたアンケートの結果が掲載してあった。質問は「君の心からの願望は何か」というものであった。多くの子どもたちの答えは次のとおりである。「お母さんが絶対病気になりませんように」「生きたい」「人々が健康でありますように」ある少年は「早く死にたい」と答えた。
 こうした言葉は、子どもたちを支援し援助する義務を放棄した大人たちへの告発状である。」


☆ガリーナ・ロディチ

「あんなにも幸せだった
カミツレの花ひとつに 雑草の一本に心をおどらせ
森を歩いては カッコウの歌を聞いた
カッコウさん カッコウさん
私はあとどれくらい生きられるの」
ママの瞳は光を失い
口からほほ笑みが消えた
ママの髪には白いものが目立ち
心には恐怖が宿った
チェルノブィリ チェルノブィリ
お前は不幸をもって来た
もうじき私は死ぬの まだこれっぽっちしか生きていないのに
チェルノブィリ チェルノブィリ
一体お前は何をしたの
残されたのは何百万のただれたむくろ」


☆ナターリア・コジェミャキナ

「ここスベトロゴルスク地区にもゾーンから移住してきた人はたくさんいます。みんなは、移住の時に指導者が約束してくれたことを信じていました。人間的な水準の生活を期待し、人の親切を期待し、それがふるさとへの郷愁
に勝てると期待しました。しかし、そのとおりにはなりませんでした。じめじめした家、小さすぎる納屋、不十分な物質的支援、援助の不足、そしておまけに「お役人仕事」……みんなこんな目にあいました。」

「私たちの地区で、もっとも汚染されている場所の一つが、コロレバ・スロボダ村です。そこの中でも特に汚染のひどいのが小学校の校庭です。放射能を測定する係官の線量計は針が振り切れて使いものなりませんでした。それにもかかわらず、休み時間には子どもが校庭をかけまわり、砂遊びをしています。この学校では今も授業が行われています。誰も心配しないのでしょうか。そして、その子孫はどうなるのでしょうか。」

「土地も、森も、花も、鳥も、獣もみんな地雷と同じです。それは爆発するものもあるし、爆発しないものもあります。放射能がいっぱい詰まっていて、人間の機能を爆破し、死にいたらしめることさえできるのです。」

「この現実を信じないとでもいうのですか。ゴメリ州立病院循環器科に行ってみてごらんなさい。何にも興味をしめさない赤ちゃんの目や、赤ちゃんが助かる希望をなくし、悲しみから髪が真っ白になってしまった若い母親の姿を見ることができます。この光景を見たら、みんなに、そして一人ひとりにこうたずねたくなるでしょう。
「みなさん、この苦しみにもてあそばれているような日々は、いつまで続くのでしようか。母親の悲しみ、子どもの早すぎる死、民族の滅亡にたいして誰が責任をとるのですか」と。」


☆エレナ・クラジェンコ

「私は十年生です。学校にも通い、だんだんと新しい土地にも慣れてきました。しかし、ここでもチェルノブィリは私たちをつかんで離さないのです。」
「…私たちは、療養のために数々の土地を訪れました。医者の診断では、11人の同級生のうち健康といえるのはたったの2人です。私たちの体の全機能が慢性的な病気に犯されています。」


☆ナターリア・ビノグラードバ(16歳)

「私はよく病気をするようになった。以前は「悪い」血液の病気や甲状腺肥大といった病名を聞いたことがなかった。しかし、統計報告には、私たちの町の住民の健康状態に異常はなく、心配されるようなことは何ひとつないと、全く事実と違うことが書いてあった。最近では、診療所に行けば、患者が増えていることが一目でわかる。単純な風邪もひどくなりやすく、死亡にいたることが度々起こるようになった。」
「毎年夏がくると、家庭で大きな問題になるのは、子どもをどこで療養させるかということである。最初のころは、出かけることがうれしかったが、だんだんいやになってきた。家にいたくてたまらない。」


☆キーラ・クツォーバ(15歳)

「1986年12月に生まれた、私のいとこのマーシャは、一歳になっても立つことができなかった。股関節に骨がなかったからだ。」
「おばあちゃんは急速に老け、おじさんはスラプチナの建設から戻ると咳をするようになっていた。マーシャは今でもいろんな病を「花束」のように抱えて成長している。」

「ささいなことかもしれない。でも私には多くのことが変わってきているように思えてならない。人々は寂しげになったり、目つきが厳しくなったり、粗野になってきているようだし、子どもも同じだ。」

「半年に二回健康診断をうけたが、結果が悪く、両親にとっては驚きであった。私はこの数値がどれほどひどい値であるのかを本当には理解できていない。しかし私が正常ではないということがはっきりしたのである。」
「私のことを心配して、母の方が病気になるのではないかと心配している。」