古着の山

夢のなかで、小学校の同級生に会った。
中学のときには煙草を吸ったり、授業を抜け出したり、荒れてしまっていて、ほとんど関わることもなかった。小学校の頃に一度私の家に来て、ナツメの実がなってるのを、まだ青いのを摘んで食べて、またあれを食べたい、と言っていた。それくらいしか記憶にない子だったんだけど。
夢のなかで私も彼女ももう大人になっていて、何かのグループで一緒に活動していて、彼女が壇上で喋っていた。立派になったんだなあ、よかったなあ、と思いながら、でも、いつまた何が壊れていかないとも限らないと、不安も感じていた。

それから、夢に現実の意識がまぎれこんできて、小学校の卒業写真のことを思い出した。小学校のクラスは、担任があきれるほど(しかしそれを口にする教師も問題だろう)両親の揃っていない家も多かったし、貧困家庭も多かった。
卒業記念の写真を撮るときさえ、ふだん通り、汚れたジャンパー姿の男子たちを見て、担任は絶句していたが。

(そして、子どもの頃は気づかなかったんだけど、その記念写真、私もふだん通り、母がどこかでもらった古着を縫い直したジャンパースカートと袖口のすりきれた薄いセーターを着ているし、女子たちも多くは普段通りで、貧富の差、あるいは親の意識の差は、わりと露骨に見てとれる。教室は、いつもこぎれいな服を着ている子たちと、着古した古着をさらに着回している子たちの2種類があった。)

☆☆

数日前、実家の近くに住んでる一回り年上の知り合いのお姉ちゃんから電話があって、いったい何ごとだろうと、まさか父に何かあったかしらと、一瞬心臓がどくどくしたが、「かずみちゃんかあ、しーちゃんよお」というのんびりした声に、そういうことではないらしいと、ほっとした。
「いま、片付けよるんやがあ、息子らのや、私の、着んようになった服がようけあるんやが、いらんかあ」
いるいる。
「選らずに、ぜんぶ送るけん、いらんものはそっちで捨てさいやあ」
といって、送ってくれた。

それが半端ない。巨大な段ボールが4つ届き、玄関が埋まってしまった。
片付けないと、布団を敷く場所もないので、一日がかりで仕分けした。

成人した息子がふたりいて、兄はやせていて、弟は太っている。家を出ている兄は、家にある衣類はもういらん、というし、家にいる弟は、さらに太っていくので、昔のものが着れん。
兄のほうのは私が着るのにちょうどよく、弟のほうのはパパが着るのにちょうどいい。ズボンなんか買ったら数千円しそうなのが、10本ほども入ってる。これはものすごく助かる。

「ほかの人にあげるんは気をつかうが、あんたは気をつかわんでいいけん、助からい」
と、しーちゃんは言う。というわけで、ほんとに何から何まで、破れた毛布に肌着の類まで詰め込んであって、もう笑ってしまう。
ところで、しーちゃんはしーちゃんで、親戚の年寄りらから、あれこれ古着を引き取っているのである。
「年寄りはものをよう捨てんやろ。片付けるのも面倒なやろ。やけん、もう何でも送ってきさいや、汚れとっても破れとってもええわい。犬の敷物にでもするけん、って言ってあげるんよ」
それで、しーねえちゃんのところで濾過された残りが、うちに届いたわけである。
ずいぶんすっきりしたでしょ、って電話でいったら、
「ほうよ、おかげで片付いたわい」って言う。

しーちゃんに最初に服をもらったのは、高校を卒業した頃だ。大学に行くのに、服がいるやろ、っていって、あの頃まだ結婚してなくて、ひとりで暮らしていたアパートに呼んでくれて、ブラウスやスカートや、ひとかかえもたせてくれた。
中学高校は学校は制服だったし、家では、父の作業着のおさがりを着ていたし、冬はその上から、母が風呂敷や端布を縫い合わせてつくって、布団綿のあまったのを入れた、奇妙な綿入れの、袖口なんか真っ黒に汚れたのを、ずっと着ていたのを覚えているけど、それは全然気にもならなかったんだけど、まわりの人たちはそれなりに心配していたらしかった。

あのとき、しーちゃんがくれた服のなかには下着もあって、きれいなもんだったけど、下着はもらうもんやないよ、とさすがに母も言ったが、
しーちゃんが、部落の極貧家庭で育って、学校もまともに行かせたもらえなかったことはどこからか知っていて、捨てるにしのびないんだろうと、買えば高そうなオシャレな下着を見て、思った。
オシャレすぎて着れなかったけど。

それで、届いた山のような古着のなかにも、下着の類があって、買ったまま着てないという冬用の婆シャツなんかはありがたいんですが、てらてら光る真っ赤なのとか、いろいろオシャレなのは、新しくても古くても、私着れません。

とりあえず、捨てるものをまとめる。犬もいないので、破れた毛布はいらない。婆シャツ以外の下着もいらない。夏服は今は考えたくないので段ボールに詰めてしまう。
カバンの類は町内会のバザーに出す。スニーカーは私が履ける。

とりあえず一日がかりで、押し入れとたんすのなかに詰め込んだが、これで終わったわけではない。
さて、怠けてないで衣がえしよっ。