釜山港。 
釜山港の売店で、ＫＴＸ（韓国新幹線）見かける。
ああ、こんなところにあるのか。昨日市場を１時間半歩いて探したのは何だったかしらと思いながら見てたら、店のお姉さん、すかさず声をかけてくる。
「韓国のりはどう。これ全部で８００円」
のりはほしい。軽いし。と思ったら、ひとかかえある。かさばるけど８００円なら買う。
「キムチは買いましたか？ これ、１５００円を１０００円」
キムチもほしい。
「かたつむりはどうですか。日本で買ったら６０００円が、ここなら３０００円」
かたつむり？？？？？
そういえば、市場で「かたつむりあります」って貼り紙を見た記憶が。日本語だった。韓国人、かたつむり食べたかなって、でもフランス人も食べるんだから食べてもいいけど、なぜに日本語。
「かたつむりクリームですよ。知らないんですか。今大人気。みなさんこれを買いに韓国にいらっしゃる。ほら、これを（といって、手にすこしつけてくれる）顔に塗って寝たら、翌朝お肌はつるっつる。」
お姉さん、日本語上手。感心して聞き入ってしまった。でも、私は顔にものを塗る習慣はないし、見かねて姑さんが何度か、あれこれくれたが、３日も続かなくて、３年もほったらかして、そのうち捨てるはめになるし。
「お土産にどうですか。ものすごく喜ばれますよ」
ふむ、姑さんのお土産にすればいいか、と思ってしまった。
買ってから気づいた。義父母さんには内緒の旅である。
もしばれてたら、これをお土産にすればいいけど、ばれてなかったら、いちいち言うのも面倒のもとだなあ。
どうしようか。かたつむり。
☆
船は行きと同じ船、同じ船室。部屋には、８１歳と７９歳の在日のおばあさんふたり、釜山一泊１８０００円のツアーでエステ三昧してきたという北九州のおばさんふたり、と私。
８１歳のおばあさんが、みんなでごはん食べましょうという。おかずはナムルをもってきているから、コンビニでご飯買ってそれで食べましょう。食堂で食べると高いから。
で、船室に新聞紙敷いて、みんなで食べる。
わらびとトラジ（桔梗の根）のナムルに、むした魚に、のり。
８１歳のおばあさんは、１２歳のとき日本に来た。１５歳で戦争が終わって、帰国したが、３年後にまた日本に来て、そのまま結婚して住み着いた。子どもは５人、３７歳のとき夫が死んだ。末の子がまだ４歳。言葉では言われないほどの苦労して５人の子を育てた。６８歳まで働いた。ふつうの仕事で育てられん。対馬で海女をしていた。子どもも孫もみんな帰化した。もう韓国籍は私だけ。
そんな話をずっとしてくれた。
それでまた出てきた、かたつむり。眠れないのでロビーで本読んでいて、部屋にもどると８１歳のおばあさんが、真っ白な顔してた。パックを顔に貼りつけていたのである。これ、あげるわ、って３枚くれた。かたつむりパック。
せっかくなので貼って寝たが、化粧水のにおいが、鼻について眠れない。でもこの顔でロビーに出ていけない。でも朝、たしかにつるつる、かも。
下船を待っていたとき、
「嬢ちゃん、ええ帽子かぶっとるのう」と声をかけてきたおじさんがいて、（ああっ、広島弁だ）「１００円」と答えたら大笑いで、あれこれ教えてくれたのだが、韓国からの団体客は、これから別府の温泉に行くらしい。日本からの団体客は、広島からのツアーで、釜山と慶州をまわって２５０００円だって。
「嬢ちゃん、広島なら、一緒に帰ろう。バスのわしの隣の席あいとるで」
せっかくですが、私は新幹線の切符がある。
船を下りて、税関を抜けたところで、８１歳のおばあさんと別れた。すごい荷物。このたくましさには絶対かなわないと思う。
「また会いましょうね、きっと会いますよ」とおばあさんが言う。住所も名前も知らないんだけれど、そう言われると、そのような気もしてくる。
どうぞ、いつまでもお元気で。
駅に向かって歩き出したら、背中から、
「嬢ちゃん、男に声かけられても、ついて行かんのんでー」
と、さっきのおじさんの声がして、ふりむくと手をふる。嬢ちゃんと呼ばれる度に吹き出したくなるが、被爆してるというから、６６歳より年上のおじさんから見ればそれでもいいのか。
「ちゃんと旦那と子どものところに帰るよー」
で、帰ってきた。
☆
それでいま、私の目の前にはかたつむり。
クリームは９１パーセントって書いてある。５０グラム。６０００円するんだって。かたつむりパックも２枚ある。それをかぶってお化けになろうと思いついた子どもが欲しがったけどやらん。 
売ろうかな。さしあたり私はお金がほしい。（正直言って、無駄遣いしたと思って後悔してるわけなのだ）。
かたつむりクリームとパック２枚、送料込み５０００円でどうでしょう。もし欲しい方いたら、メールください。今週中くらいで。
売れなかったら私が使おう。そいで、目が覚めたら、かたつむりなんだ。
