安永蕗子さん逝去

17日。安永蕗子さん逝去。92歳。
現代歌人文庫めくってみた。20年ぶりくらいかな。ああ、なつかしく。

 何ものの声到るとも思はぬに星に向き北に向き耳冴ゆる

 踏まるべき生きも予知して冬草が平たく朱く拡げゆく掌を

 花の名を読めば異国の声となる吾ら逃避のごとく薔薇園

 つきぬけて虚しき空と思ふとき燃え殻のごとき雪が落ちくる

 滑めらかに吾が掌をのがれゆきし魚それより湖(うみ)の限りもあらぬ

 溶く墨のゆふべほのけき濃淡に見えかくれつつ水没家族 

 かすかなる炎(ほむら)となりし麦秋の村ぐるみ無限漂泊のさま

 かなしみの枝振るごとく水蛍入れし籠(こ)さげて通るは誰か

 黒き眼鏡の視野に見てゐる山も雪もかなし日本の景のまとまり


最後のは、日本を遺影におさめたような歌だけど。かれこれ半世紀前。

合掌。