いまのところ

野ネズミがいる。ほんとに小さいかわいらしいのが、このあたりにはたくさんいる。
穴はふさいだはずなんだけど、どっから入り込んでくるんだろう。
目の端を黒い影が走り過ぎた気がして、見たら、台所のドアの隙間から廊下のゴミ箱を置いてあるあたりの暗がりへ走って行った。それでゴミ箱の横に、ネズミほいほい仕掛けたら、ほんの30分ほどの間に、かかった。
鳴くのだ。かわいい切ない声で。体長5センチくらいの小さな子が。このあとは、なかなかつらいので、パパにお願いするのだが、「鳴いてるよ、ふるえているよ」と実況中継するし。
これで3匹目。ごめんな。

なだれるように秋が過ぎていく。向かいの森の紅葉。その向こうに、生き物たちの気配。Cimg6137



数日前、「あなたは、本当に楽しそうに子育てしているよねえ」と近所のお母さんに言われた。「みんな、子どものことではほんとに悩んで悩んでいるのに」。
むかし、子どもの私の目に映った、母たち、まわりのおばさんたちも、そういえばみんな、子育てに悩んでいた。子どもにあれこれの障害があったり、盗み癖があったり、乱暴だったり、勉強できなかったり、しなかったり。貧乏で、必要なものを買ってやれないとか。大きくなればなったで、賭け事するとか、仕事がないとか、だましたとかだまされたとか、嫁が気に入らんとか。悩みも愚痴も終わりがないのであって、ああ、母親なんかになるもんじゃないな、と私は思っていた。

はずだったが。

見まわせば、むかし見たものが、また目の前にひろがっているみたい。お母さんたちが、子どものことで、ほんっとに悩んで悩んでいるのは、切ないくらい。たぶん子どもって、手が届きそうな距離にいるのに、でも届かない別の生き物なのが、苦しいかもしれない。

楽しそう、って。言われてみれば、いままでもいまも面白いばっかりだけど。
悩むことを怠けているだけかもしれないけど。いつか、悩むこともあるかな。

さて、その息子は、料理や編み物ができる男子になりたいらしい。いいことだ。
夏からずっと、お米を研いでもらっているけど、最近は味噌汁をひとりでつくれるようになった。ちょっと目をおおうほどの不器用さなので、ひとつひとつ目が離せないのでしたが、やる気のあるうち、いまのうち。ハンバーグこねたり、スパゲティゆでたり。

料理以前に、パックや袋を開けるのも難しそうにしてるのを見てると、むかし、給食のジャムの袋をうまく開けられなくて、ジャムが、机に飛んだり服に飛んだりして、いつも困ってしまっていた自分の姿を思い出す。パン屋さんでバイトしたときに、ケーキを挟むのに、力の加減が分からなくて、つぶしてしまったり、落としてしまったりしたこととか。

だって親に似ているだけなので、文句の言いようがない、それに実際、親よりはマシな、ほんとに上出来な息子なのでしたよ。いまのところ。