秘密の本

夕方、子どもはピアノの練習している。
しているはずなのだが、ときどき、それからしばらく、ピアノの音が聞こえなくなる。こういうときは、何かそこらにある本を読み出したのだ。
お気に入りなのは、3・11の写真集で、もう本がぼろぼろになってページがはずれるくらい、めくっている。
さて、声をかけなきゃな、と思っていたら、子どものほうから、やってきた。
「ママ、これすごいよ。銀河電車って書いてある」 Img047_2
え。
子どもが見ていた本はこれでした。


私の歌集。
あー。隠していたのに、どこからひっぱり出してきたんだか。

「これ、ぼくの絵が表紙だよね。それで、なかの短歌はママが書いたんだよね。被爆電車と新型電車が出てくるよ。自転車も。それからそれから、機関車トーマスも出てくるんだ。ああ、ママの短歌、すばらしいよ」

……この手放しの賞賛はなんだ。ま、乗り物が出てくればなんでもいいんだわ。

子ども、朗読をはじめる。

 Uの字の景色の底を走ってゆく被爆電車や新型電車
 自転車屋の天井に自転車吊されてそこだけが夕焼けのサーカス
 トーマスのレールも銀河へ続くから(みんなのほんとうのさいわいを)

なんと。8歳の子でもすらすら読める短歌でした。ちなみに章タイトルが「銀河電車」。

さて、ぼうや。ちょっとお話をしよう。
これは秘密の本なんだよ。これは秘密の本だから、ママは秘密の名前で書いている。この本のことは、パパは知ってるし、すこしのお友だちも知ってるけど、ほかの人は知らない。おじいちゃんもおばあちゃんも、近所の人たちも、みんな知らない。だから誰にも言っちゃいけない。わかるよね。
それで、秘密は秘密だからすてきで、しゃべったらだいなしなんだ。きみは、銀河電車に感動してくれたけど、ほかの人は、くだらないっていうかもしれない。そうすると、感動したきみの気持ちが傷つくよね。それは残念だよ。だから言わない。
……必死の口封じ。

「うん、絶対言わないよ。それでそれで、ぼくのかいたお月さまの絵にママの、もうひとりのわたしがどこかとおくにいていまこの月をみているとおもう、って文字がかかっているんだ。あのページもすばらしいよ」Img046 


中表紙のことですね。

そんなに感動してくれてうれしいよ。
でももうすこし大きくなってから読んだほうがいいと思うよ。

それから子ども、広島の市電の特徴について、えんえんと話しはじめ、ついで高知の市電の特徴について話しはじめる。図鑑の内容を丸暗記してる気配だが、何度聞かされても、私はおぼえられない。



さて、困った。もうすこし先だと思ってたんだけどな。
この子ども、たいていの漢字は読める。この調子だともう、なんでも嗅ぎあてるに違いない。
自閉症ソーシャルスキルの本は、なんの本と思ってか知らないが、とにかくぼくの本と思ったらしく、すでに自分の本棚にもっていって読んでるし。

またいろいろ、ふたりで秘密の話もしようね。
「うん、楽しみだね」