ぼくはママをゆるさない  5

つまるところ私は、子どもをいじめから守ってやれなかった母親ということなんだなあと、お風呂のなかでしみじみ思った。

私の子どもは、ぼくはママをゆるさない、と言った。だから私もあんたたちをゆるさない、と、いじめた子らに向かって言う自分の姿がふと浮かび、何人かは顔が浮かんでくるお母さんたちを思い、子どもをいじめから守れなかった母親の悔しさ情けなさと、自分の子どもが人をいじめてしまった母親の悔しさつらさと、どちらがどうなんだろうなあと、ぼんやり思う。

怒りは善悪に通じる。ここは母親としては怒る場面だと、思ってはいるんだけど、怒らないと、なしくずしにごまかされてしまうぞと、いう感じがしてるけど、怒りを持続するのは、疲れる。

ああ、お母さんたち、かわいそうになあ、と思う。自分の子が人をいじめる、という絶望感とどう対峙していくのか。なんとかごまかしながら、やっていくのかなあ。
担任のとんちんかんはどうしたものか。
うちの子に声かけしていきます、と言ってくださるが、いや、うちの子はかまわなくていいから、いじめた子たちを矯正してほしい。

「ぼくの場所から、あの子たちを外してほしい」という子どもの希望だけはかなえたい。

「ぼくはママをゆるさない」と言った。いい言葉だ。
ゆるさなくていいよ。そう言って怒ってくれて嬉しいよと言ったら、驚いた顔をした。
だってそれが本当の気持ちでしょ。きみが本当の気持ちでいてくれたら、それがどんな気持ちでも嬉しいよ、と言ったら、また驚いた顔をした。それからほっとした顔になった。

夕方、子ども、ピアノの練習をしている途中で私を呼んで、
「ママ、ぼくは動物語翻訳機をつくらなくても、動物と話ができるということがわかった」と、また謎なことを言う。
どうするの。
「言いたいことを心のなかで思って、思いながら、相手の動物の鳴き声で鳴くんだ。ワンワンとかさ。ママ、やってみて」
ワンワン。
「ワンワン」と子どもも答える。
「ぼくは、ママ大好きって言ったんだよ。ママは何て言ったの」
りく大好き、って言った。
「ほら通じた。じゃあもう一回」
ワンワンワンワン。
「ワンワンワンワン」と子どもも答える。
「ぼくは、ずっと一緒にいたいね、って言ったんだ。ママはなんて言ったの」
まじめにピアノの練習しろって言ったの。
「ひゃー」
今度は通じなかったね。
子ども、猫みたいにみゃーみゃーと甘えてくる。

あのさ、ママいま連載小説書いてて、このブログだけど、「ぼくはママをゆるさない」ってタイトルなわけよ。だから、もうすこしがんばって怒ってくれてないとさ、話の中身とタイトルとがちがってくるんだけどさ。

「ぼくはママをゆるさない」ってかっこよかったのに。
なしくずし。

きみはほんとにいい子だよ。