赤く咲くのは

その頃、家にはテレビがなかった。ある日こわれてそれっきりだった。
祖父母の家に白黒のテレビがあった。まわりがカラーテレビになっても、白黒のままで、カラーは目が悪くなる、と言っていた。
でもいつのまにかカラーになっていて、目が悪くなるって言っていたのにいいんだろうかと、思った。

藤圭子の「夢は夜ひらく」は祖父母の家のテレビで、人生最初に記憶した歌謡曲だと思う。白黒のときだったかカラーになってからだったか。幼稚園か小学校の最初のころ。

「赤く咲くのはけしの花 白く咲くのは百合の花」
それで、けしの花というものが世の中にはあって、それは赤い花で、百合の花というものもあって、それは白い花なのだと、私はこの歌で覚えた。
けしの花も百合の花も知らなかったけど、花の名前と色の名前が結びつく、という、それは新鮮な体験だったのだ。

おばあちゃんはその歌を嫌っていたから、たぶん、あとのほうの謎の歌詞に由来するのだろうという気はしたけど、それはまだよくわからず、

でも、赤いけしの花と白い百合の花を、見てみたいなあという、私のあこがれは、言ってはいけないことのような気がした。
もしかしたら、私は、おばあちゃんがきらいなものを、好き、かもしれないのである。

秘密、というものを最初に心に抱いたのは、そんなふうだった。

……