薔薇が咲いた

薔薇が咲いた。 Cimg2897


「薔薇 おお 純粋な矛盾 よろこびよ
このようにおびただしい瞼(まぶた)の奥で なにびとの眠りでもないという」

リルケの詩。



わたしんち。薔薇のアーチができている。私がそうしたんじゃなくて、勝手にそんなふうに枝が伸びたんだけど、こんなふうに雨が降ると、重くてさがってくるので、背の高い人は頭をひっかかないように気をつけなければいけない。花が終わるまでこのままにしていよう。

むかし、子どもの頃に暮らしていた家に、薔薇のアーチがあった。ちょうどこんなふうな、赤い蔓薔薇。父がまちがって、薔薇の根を砕いたのは、いつだったろう。ちょうど花の頃で、その翌日から、たちまち花が枯れはじめた。それがとても悲しかった。

この家に薔薇が咲くのを知って、あのとき消えた薔薇が、宇宙のどこかから、ふっと、私のところに戻ってきてくれたような感じがしたんだった。友だちに再会したみたいな。また会えたねって、言いたいみたいな。
私はここで暮らすんだろうな、と思った。

そういえば、薔薇のつぼみ、小さくてまだ固いやつ、塩漬けにするとおいしい。天ぷらもおいしいらしい。忘れてた。全部咲かないうちにすこし摘んでおこう。
近所の、数年前に死んだおじいさんが教えてくれたのだ。そのおじいさんのお母さんが好きだったんだって。
おじいさん、生きていたときは、畑の野菜を、玄関が埋まるくらいたくさん、差し入れてくれた。

いばら姫、っていうのは、100年、いばらに覆われた城のなかで眠るのだっけ。
ここにきて12年。まどろみながら過ごしたなあ。
どうして、こんなにおだやかな日々が、ゆるされてよかったんだろう、というほど。
あと100年つづいてもいいけど、つづかないね。

薔薇が咲いた。