ブランコと弟


 通りに面して祖父母の住む家があった。その家の裏は中庭になっていて、中庭の奥に、二間だけの小屋のような家があった。5歳まで、その家で暮らしていた。
 家には玄関もなかった。ベニヤ板の戸をあけると、すぐに部屋で、その奥にもう一部屋。台所もトイレも外にあった。
 最初の部屋にブランコがあった。背もたれのある丸い籐椅子を、天井の梁からロープでぶらさげたもの。父が子どものためにつくったが、たいてい母が、取り込んだ洗濯物を積む場所にしていた。洗濯物の上にすわると叱られるから、洗濯物を畳に落としてからブランコにのった。
 畳に散らばった洗濯物のなかから、赤ちゃんだった弟の、髪の逆立った頭が見えていたのをおぼえている。ブランコにのりたい私が、寝ている弟の上にも、かまわず洗濯物を落としたのだろう。

 昨日、久しぶりに電話で弟の声を聞いた。何年ぶりだろう。前に会ったのはいつだったろう。大人になってからも何度も会っているのだが、思い出すのはいつも、泣き顔か笑い顔がわからない、くしゃくしゃの顔をした子どものころの弟だ。