チクチクボン


 2歳児検診に行った。母子手帳の問診のところに、二語文を話しますか?例「ワンワンキタ」「マンマチョウダイ」など、とある。まさか。いいえ、を○で囲んだ。
 診察室に入ると「大きくなったね」と先生。母子手帳を見て「しゃべる?」と訊く。「いえ、あんまり」と私。「言葉はすこし増えた?」「はい、少しは」「じゃあ、いいね」「ええ、いいです」
 検診はあっけなく終わり、あとは、生後8か月で発覚した色素性蕁麻疹(という病気らしい)の半年ごとのエコー検査の次の予約をいれて帰った。

 二語文は言えずとも、言葉は増えた。「ブッブー」は「ブッブー(車)」と「シッシッポッ(汽車・電車)」に分化し、「ワンワン」に「ニャーニャ」と「メエエ」と「コッコ」が加わった。
 診察までの待ち時間をおとなしくしているはずもなく、開いているドアを、皮膚科、外科、とのぞいてまわる。あちこちに時計をみつけては「チクチクボン」と嬉しそうに言う。「チクチクボン」は、最近お気に入りのコトバだ。

 岩波少年文庫の『トムは真夜中の庭で』は、古い時計が出てくる素敵なお話だった。(と書いて、本当に時計は出てきたかしら、と不安になる)、もしくは古い時計が素敵なお話を聞かせてくれたような気がするお話。過去は過去でなく、もう一つの現在として過去があること。