寒そうな月


 雪。昨日の午後からずっと降っている。子どもがおもちゃ箱の上に爪先立ちをして、窓にしがみついて雪が降るのを見ていた。
 積もってしまうと外に出るのが大変なので、夕方、ぎりぎりで郵便局へ行く。それから買い物をすますと、もう外は薄暗い。雪が降りつづいているのに、月が出ていた。月も寒そうだ。降る雪の向こう、汚れた電灯みたいに、にぶく黄色いぼんぼりがかかっていた。

 夜の町の電信柱の下、捨てられた片一方だけの靴の上に雪が積もっているのを、見た。学生のとき、家庭教師のアルバイトに行く途中の道だった。雪が積もっている、というそれだけで、みすぼらしいゴミにすぎない靴が、そこになくてはいけないものになっていた。そのことが、なんだかとても不思議だった。

    すてられし下駄にも雪がつもりおるここに統一があるではないか (山崎方代)

 最近になって、この山崎方代の歌を知った。もう亡くなってしまった人が、山崎方代はいいねえ、と言ったことも思い出す。そのときに知っていればよかった。こういうとき、自分の無知と不勉強はなさけない。そうですね、いいですね、といま返事したいけれど、もう間に合わない。
 しばらく寒い日がつづくみたいだ。