ことばの杖


 昨日の午前は、保健センターの親子教室に行ってきた。保健士さんが誘ってくれたので行ってみると、名札まで用意してくれていた。4組の親子に、5人の職員。2歳頃の子どもは全員男の子で、どうも言葉が遅い子が誘われたようである。親子や友だちとのコミュニケーションを促そうという趣旨のようだ。月1回、4か月通うことに。
 私の子どもは、新聞を破る遊びをみんながしているときにひとり抜け出して、時計の下にたって、「チクチクボン、5、8、10」と言っていた。それにしても子どものすることは、どの子もそれなりにユニークで、眺めていて楽しかった。

 近所の人に古本ひとかかえ貰った。幼児用の学習絵本のシリーズが10数冊と小説の単行本数冊。好きなだけ本が買えるような余裕もないし、本屋も図書館もなかなかいけないので、この際なんでも本がもらえるのはありがたい。
 なかに李良枝の『由熙』があって、なつかしかった。芥川賞をとった作品ではなかったろうか。雑誌に掲載されたときに読んだ。たしか、韓国に留学した在日韓国人女性、由熙が、最初の「アー」のあとにつづくのは日本語の「アーイーウーエーオー」なのか韓国語の「アーヤーオーヨーウーユー」なのか、「ことばの杖」を掴みあぐねている話だった。
 あの頃、中上健次が、韓国について熱いエッセイを書いていたりした。李良枝が、若くて急死したのは、中上健次が死んで間もない頃ではなかったか。90年代のはじめ頃。もうずいぶん昔の気がする。中上健次が死んだとき、なにか「熱」のようなものが消えた気がした。その頃から私は小説を読まなくなった。 

 昔、被爆体験を聞かせてくれた在日一世のおばあさんが、「韓国語も忘れたし、日本語もよくできないし、わたしは中途半端な人間だ」と語っていたことも思い出す。

 朝起きて、子どもはまず「ゴー」と言う。一番最初におぼえた言葉のひとつが「ゴー(go)」だったのだが、いまは「5、8、9、10」さらに「4、7」そのあとなぜか「ピーフォーファイ(3、4、5)」とつづいていく、数字の杖である。

 昨夜から雪。降り続き降り積もり、30センチを越えて積もっている。降り止んだら、雪かきしなければ。