「存在しよう!」と


 「存在しよう!」と心に決めた以上、
 欠乏がこの世にあるなどという迷いにおちいるな。
 絹糸よ、おまえは織物の一すじなのだ。

 たとえおまえが心の中でどのような模様に織り込まれていようと
 (たとえそれが痛苦の生の一こまであろうと)
 讃めたたうべき壁掛けの全体こそ おまえの志であったことを忘れるな。
   R.M.リルケ 「オルフォイスへのソネット」から (訳者不明)

 今まで生かされてきたことについておもうとき、15歳の頃に、リルケのこの詩をおぼえたことにおもいいたる。あの頃たくさんの詩をおぼえ、そのほとんどすべてを忘れたが、まだ忘れていないひとつの詩。ときどきの自分の心を、詩のうえに重ねると、自分の心の狂いに気づくことができるような、そんなふうな詩として、心のどこかに、ありつづけた。

   きのう誕生日。嬉しくもなんともないが、年をとるのは、そんなに悪いことでもない。たとえばもう一度、二十歳をやりなおせるとしても、そんなしんどいこと、私はまっぴらごめんである。