もえよ 木の芽のうすみどり


   朝からずっと雨。しとしと降りつづいている。年末から消え残っていた庭の雪もほとんど消えた。
 木々は雪のなかでも、その芽をつのぐませていたようで、青い花さく紫陽花は青く、赤い花さく紫陽花は赤い色に、小さな葉の塊が芽吹いている。
 去年ぐらいから成長いちじるしい小さな椿の木も、いくつか蕾をつけているから、はじめての花が咲くかもしれない。
 痩せこけたミモザは、毎年虫の食卓になって、つぼみが無事に春まで残ったことはないのだが、今年は残っている。
 春待つ気分。しかし、その前に払わねばならない電気代がおそろしい。この冬の暖房はすべて電気だった。この家、古くて傾いていて、風通しがとてもいいから、あれこれの暖房器具をほとんどつけっぱなしだったのだ。

 中学生のときの友だちが、教えてくれた詩を思い出した。高校は別々で、それでもときどき会って話すことといったら、本の話だった。互いに読んだ本の内容を、何時間も喋りつづけていたものである。歴史小説の話になると、とにかく長くて、気づくと日暮れ、つづきはまた今度ね、みたいなこともよくあった。
 「本に読まれて」いたしあわせな時代だった。

ふるさと  室生犀星

雪あたたかくとけにけり
しとしとしとと融けゆけり
ひとりつつしみふかく
やはらかく
木の芽に息をふきかけり
もえよ
木の芽のうすみどり
もえよ
木の芽のうすみどり