2歳児様宛DM


 ときどき子ども宛てにダイレクトメールが送られてくる。どうしてきみがここにいることがばれてしまっているんだろうね。最近どこでも見かける○○じろうの幼児教材。これで何度目かのラストチャンスのお知らせがまた届いていた。
 最近はカラフルな絵や写真で、自分のものとわかるのか、親からとりあげて、なかの冊子をめくったり、見本の絵のなかに、林檎を見つければ「リンゴン」、くるまがあればブッブーと、その日1日、あるいは翌日も、ときには数日後も、ときには忘れたころにまた、引っ張り出しては眺めている。
 残念だけれどちびさん、うちはそういうものに入会する余裕はないのだよ。でも担当者様、送ってもらったDMは決して無駄にはなっておらず、子どもはあきれるくらい、撫ぜたり眺めたり、小さな数字や文字も読んでみたりして楽しんでいます。

 一通のダイレクトメールのことを思い出した。私の従姉の娘、私より4歳ぐらい年下だった女の子に届いていた。彼女が本来なら中学にあがる年の春に届いていたのは、塾の案内のはがきだった。従姉の家の靴箱の上に無造作に置かれていたそれを、高校生だった私はなんだか複雑な気持ちで見た。
 受け取り人の女の子は、重度の脳性麻痺で、生まれたときからずっと寝たきり、喋ることも動くこともできずに、まるで少し大きな赤ちゃんのように、そこにいた。
 彼女のなかを流れている時間は、世間の時間とは全然ちがっていた。私は彼女に会いたくて、よく従姉の家を訪れた。ふじこ、という名前だった。17歳まで生きて、死んだ。