「第二の地球」


 義母には夢があって、それは何かというと、宇宙には地球のような美しい星で、でも地球みたいに戦争や環境破壊などない楽園のような星がきっとあるから、その星を探すこと。見つけたら、こっちにおいで、と呼んであげる、と楽しそうに話した。死後の夢、ということになるんだろうか。

 その話を聞いて、ドストエフスキーの『おかしな人間の夢』という短編のことを思い出した。(『ドストエフスキー後期短編集』米川正夫訳 福武文庫)
 ドストエフスキーの短編のなかでは一番好きなお話なのだが、自殺しようと思っていた男が、夢のなかで死んで「第二の地球」に行くのである。それはこの地球とそっくりで、だが、そこに住む人々には争いも嫉妬騒ぎもない。楽園のような星なのだ。
 男は楽園の人たちの無垢で美しい魂に触れるが、一方、男が「第二の地球」を訪れたために、楽園の人たちは堕落する。うそをつくことを習い、うそを愛するようになり、情欲や嫉妬や残忍が、はびこるようになった。
 夢から覚めた男は、伝道者となる。
 「おれは見た。だから、知っているが、人間は地上に住む能力を失うことなしに、美しく幸福なものとなり得るのだ」

 20代半ばくらいに読んだ本。次のくだりに線が引いてある。

 「おれが永遠の生命ということを質問すると、彼らはほとんど合点のゆかない様子であったが、見たところ、彼らは永遠の生命を無意識にかたく信じていて、そんなことは問題にならないようなふうだった。彼らには神殿というものはなかったけれど、宇宙の統率者との絶え間なき生きた連携があって、それが何か日常欠くべからざるものとなっているのであった。彼らには信仰はなかったけれども、そのかわり確固たる知識があった。」