花より鳩


  花  丸岡リカ

はな
はな
はな
とった
はい

 『どろんこのうた』(仲野毅編著 1981年)所収。愛媛の知能障害児施設の子どもたちが、ねんど板に書いた詩をまとめたもの。学生の頃に読んで戦慄したのだけれど、これは永遠に忘れないな、と思ったのが、上の詩。花の季節になると思い出す。ほかの詩についてはまた書きます。使われている方言の親しさもあって、読むと、いのちの原質に触れる思いがする。

 午後、川でクレソンを摘んで街に降りる。川沿いに桜が咲き、土手では花見の人たちがシートをひろげている。曇り空だったけれど、週末は混み合うだろうから今のうち、平和公園の桜を見に行くことにする。風景のなかにあわあわと桜が浮かび、空には飛行船が浮かんでいて、川では遊覧船がたくさんの大きなシャボン玉を吐いている。桜の向こうに見える原爆ドームも、夏の緑のなかにあるのとはちがって、なんだか夢のなかの景色みたいだ。

 公園には鳩がいる。子どもは花より鳩がいい。追いまわして鳩が飛ぶ度、「バサバサバサ」と声をあげて、自分も手を羽のように振っていた。いつかきっときみは、鳥よりももっと自在に羽ばたけるようになると思うよ。
 散歩の犬が飼い主からえさをもらって舌なめずりするのを見て、その真似をし、小便した犬が土を蹴ると、その傍らに行って同じように土を蹴る。一瞬、犬の子に見えた。そうして夕方まで走り回って遊んでいた。

 それから知人の家に寄って、子どもはみかんとせんべいとあさりごはんを食べ、私たちはおみやげに発泡酒とせんべいをもらった。それから、クレソンを昔のバイト先のお店にもっていって、例のごとく、お好み焼きを食べ、おみやげに夜食まで持たせてもらって、帰ってきた。ただ、感謝。