つるばら


 どこかに遊びに行きたいようないい天気。

 風邪のせいだろうが、ついに昨夜から声がでなくなった。けれども子どもは、絵本を抱えてきて「ぐり、ぐら、ぐり、ぐら」とうるさい。しかし、声が出ないのだから読めない。「ぐりー、ぐらー」が次第に泣き声になり、「ママしゅきー」と大泣きになり、見かねたパパが読んでくれようとするが、受け付けず、かえって怒って、さらに大泣き。それから、泣き疲れて、寝た。やれやれ。

 昨日の夕方、近所のKさんが、畑でとれた高菜をもってきてくれる。たいへん助かる。嬉しい。庭のつるばらを見て、新芽は食べられるのだと教えてくれる。塩漬けか天ぷらにするとおいしいのだそうだ。食べてみよう。

  つるばら    吉野弘 

まっすぐに立つ背を持たない
という非難と
侮蔑に
つるばらよ
どれだけ長く 耐えてきたろう。

曲がりやすい幹を持つ
暗くわびしい血統から
急いで逃げようとするかのよう
細い首すじを
横に さしのべ
さしのべ
まわりを
棘で威嚇して
心もとなく
つづいた
成長。

空と地の間を 横に這い進む
この成長には かすかな罪の匂いがある
向日性と向地性とのアイノコのような──。

秋になって葉が落ちて
やせて黒ずんだ蔓が
疑い深く からんだまま
がらあきの構図も
はっきり見えてきた。

すぎ去った春
この自信のない構図をすきまなくふさいだ
ゆたかな葉と
その上にひらいた無数の花たちは
口のきけない人が
緑と真紅の絵の具だけにたよった
くるしい弁明のようだった。