ミニヨン


 どこかへ、お出かけしなければ気がすまないようないい天気。ちびさん、どうしようか。
 「君と共にゆかまし」の詩はたぶん、人生で一番最初に読んだ外国の詩のひとつ。小学校の終わり頃、兄がくれた本のなかにゲーテ詩集があった。口絵のカラー写真のヨーロッパの風景をうっとり眺めていたりした。埃くさく、なつかしい本。


「ミニヨン」 (知りますや その国)
      J・W・ゲーテ(手塚富雄訳)

知りますや その国、檸檬(レモン)は花さき
暗き葉蔭に柑子(こうじ)は熟れ
真青き空より風通いて、
ミルテは静かに 桂は高く聳(そび)ゆ、
 そを知りますや
      かなたへ かなたへ
 いとしき人よ 君と共にゆかまし。

知りますや かの館(たち)、柱は並(な)みて
屋根高く、広間居間かがやきわたり
きびしき大理石像(いしのひとがた)はわれをうち見て、あわれの子よ
ひとやなれに辛きと 言問(ことと)うごとし、
 そを知りますや
      かなたへ かなたへ
 頼める人よ 君と共にゆかまし

知りますや かの嶺 雪の桟橋(かけはし)
騾馬(らば)は霧に歩みゆるく
洞窟(いわや)には竜の古きうから棲み
切り峙(た)つ巌に滝つせかるる、
 そを知りますや
      かなたへ かなたへ
 父なる人よ 君と共にゆかまし。