きのうにひきつづき。由紀ちゃんの新しい数学のノートの1ページ目に書き写されていた詩。

   「嘘」  丸山薫

少年の嘘は
さまざまの珍らしい夢をふくみ
波を縫ふ海鳥の白い翼の巧みをもち
ちちははもそれに欺(だま)されるときばかりが
少年の眼には世に崇高(けだか)く見えた
だが少年が悲しくないと誰れが云はう
あまりにも美しいものが遙かに飛び来つて少年の心に住(すま)ふとき
たとへば時ならず花がいちどきに咲き匂ひ
または遠い空の涯(はて)の夕暮がこの世を薔薇色にかがやかすとき
欺されてゐるのは自分ばかりだと
空や雲に涙を流さないと誰が云はう