7音の名前


 子どもがひとり遊びしながら呪文のようにぶつぶつ言っているのが、まるで宇宙語で宇宙人と通信しているみたいだと思っていたが、よく聞くと、「ペッコペコ」などわかる言葉もある。さらによく聞くと、日本語だ。絵本の文章を、ぶつぶつ暗唱しているのだった。
 ただ、「おつきさま」や「おひさま」が「オーサマ」に、「どようび」が「ドビ」というふうに、4音は3音に、3音は2音になり、発音は曖昧で、文章の並びは気まぐれ。きっと、私のほかに聞き取れる人はいないだろう。

   ところで子どもの名前は7音だ。○○○○△△△なのだけれど、ようやく自分の名前を言えるようになった子どもは、それを6音で言っていた。○○○△△△。するとそれはもう、子どもの名前ではないわけで、高校のときの同級生のすこし気になっていた男の子と同じ苗字になる、とか、私もつまんないことを思っていたんだけど、どうしても6音になってしまっていたのが、昨日ついに、7音の名前を言えた。すごい。子どもも発見だったらしく、何度も何度も復唱していた。夜、ふとんのなかにはいってからも、「○○○○△△△」ついでに「2さーい」と何度も何度も叫ぶので、うるさい、いいかげんに寝てください、というふうだった。

 ときどき「ワカッタ、ワカッタ」と言っていたのが、なんだったのかが、ついにワカッタ。絵本のなかの、こねこちゃんのセリフだった。「ワカッタ」を言うこねこちゃんの顔がうれしそうなので、きみもうれしそうに「ワカッタ」を言うのよね。