明け方の眠りにまぎれこむように、音楽が聞こえていた。何かのミサ曲のような旋律で、ブルガリアン・ポリフォニーのような女声の声の響き。こんなきれいな音楽をずっと聴いていられるなんて、なんてしあわせだろうと、夢のなかで思っていた。
起きて、もしかしたら思いがけない時間に起き出した夫が、隣の部屋でCDでもかけていたのだろうかと訊くと、そんなことはないという。どこからも音楽なんか聞こえていなかった。とすると、私の夢のなかでだけ鳴っていた音楽なのだ。
「死後も音楽はあるかな」という話をした。
「死と炎」 谷川俊太郎
かわりにしんでくれるひとがいないので
わたしはじぶんでしなねばならない
だれのほねでもない
わたしはわたしのほねになる
かなしみ
かわのながれ
ひとびとのおしゃべり
あさつゆにぬれたくものす
そのどれひとつとして
わたしはたずさえてゆくことができない
せめてすきなうただけは
きこえていてはくれぬだろうか
わたしのほねのみみに
(講談社 『 クレーの絵本 』から)