衣替え


 雨があがると、庭の緑は、もう夏の匂いがしている。
 庭はすでにジャングルと化している。毎年のことながら、この時期の緑の成長ぶりには圧倒される。
 子どもの成長にも。
 去年のいまごろ着ていた服はずいぶん着れなくなり、着れるものも、長袖が7分袖に、長ズボンが膝丈ズボンになっていて、突き出た手足分、いたずらもするわけだなあ。
 いまこうしている間も、机のまわりはすごいことになっていて、すこし呆然としている。子どもは最近パズルにはまっていて、40片ほどのを4種類ほど、毎日やっているが、それで私は毎晩ピースをひろいあつめるのが日課だが、昨夜から見つからないピースがひとつあって、それも探さないといけないし。

 一つ脱いで後(うしろ)に負ひぬ衣がへ (芭蕉)

 『笈の小文』にあるこの句は、学生のとき、演習の発表の当番になったからおぼえている。なんだかたくさんレジメを書いた記憶があるが、まあ、旅の途中なので、衣替えといっても、一枚脱いで後ろに負うだけだという句。
 昔、そういう暮らしがあこがれだった。高校生の頃。余分なもののなんにもない、これ以上身軽になれないほど身軽な生き方をしたい。高校を卒業して家を出るときも、ふとんのほかには、小さなダンボール5つほどで家を出たのが、今やもう「一つ脱いで」どころか、衣替えの度に、家族3人ぶん、押し入れをひっくりかえさなければならない。

 夏服も出して、衣替えは終わったんだけれど、パズルのピース……。