わたしを離さないで


 今朝、苺17個。といっても、虫に食われているもの、野苺のような小さいのも含めて。

 イシグロカズオの小説『わたしを離さないで』は、よかった。
 臓器移植やクローンなどの、科学と倫理の問題を設定の背景にしているけれど、ありえない (でももしかしたらありうるかもしれない) 世界のなかで、生きている主人公たちの青春は、とても普遍的な、痛さ切なさを湛えていて、手放しで、泣き出してしまいたくなる。主人公のキャシーと仲間のルースとトミーの、子ども時代の、手探りで世の中を知りはじめる感触や、そこにまぎれこむ夢想、友情、裏切り、愛、そして、終わり。
 ルースのような友だちが、昔いた、と思う。トミーのような誰かも。そして、何より切実なのは、いつか終わりがくる、ということ。物語のように、死、によらずとも、終わりはきてしまう、ということ。

 たとえ再会しても、再びは、はじめられないだろう。