子どもは毎日のように、水の入ったコップに手をつっこんで、水滴をしたたらして遊んでいるが、ついうっかり、コップのなかがジュースなのに、手をつっこんでしまったらしい。テーブルの上のオレンジ色の水滴を見て、自分であわてたようで、ティッシュで「ふきふき、ふきふき」しているのがおかしかった。
 お昼ごはんをつくっているときに (手が離せないときに) 「みず、のむ」とやってくる。さっきあげたのに、と思って、見るとコップがない。いやな予感がする。「コップは?」というと、畳の部屋に取りに行く。やっぱり。また水を畳の上にまいている。ずいぶんしみこんでいる。叱りとばすと、「ママ、しゅき」と泣く。知りません。ドライヤーをかけて、アイロンをかけて、一仕事だった。

 夜、下の川に蛍を見に行く。暗い山裾に白い光が飛んでいるのがきれいだった。
 「ほたる、こんにちは、ほたる、ばいばい」と子どもが言う。いいご挨拶。人間に対しても、こんにちはを言ってくださいね。

ものおもへば沢の蛍もわが身よりあくがれいづる魂(たま)かとぞみる                  (和泉式部)

 ものおもふこともないけふこのごろ。