空とぶ目玉


 背中に目がほしい。いいや、背中だけでは足りない。ふわふわ空中を飛んで、どこでも子どものあとをついていく目玉がほしい。
 手が離せないときに、ほんのちょっとの間に、どうしてそんな悪さをするんだ、と思う。暑苦しいほどまとわりついていたのが、ふと離れて、なんだかしずか、と気づいたときには遅いのだ。

 昨日もまた、コップ一杯の水を畳の上にまいている。叱られて手を叩かれて、ぐすぐず泣くが、うつぶしている顔をのぞきこむと、にやっと笑う。服をつかんで部屋の外に放り出した。
 廊下のドアを閉めると、台所にも部屋にも入ってこれない。「ママ、ここにいるよ、ママ、ここにいるよ」と大泣きする。(ママ、ママと泣くのに、ここにいるよ、と私が答えていたら、いつのまにか、両方を自分で言って泣くようになった) すごい泣きっぷりだが放っておく。畳を乾かすのが先。

 毎日毎日、まったく懲りない。つい先日もドライヤーで乾かしていたら、ドライヤーが壊れてしまった。いつ壊れてもおかしくない古いものではあったのだが。壊れたので、それよりもさらに古いドライヤーをしまいこんでいたのを引っ張り出して、使っている。捨てなくてよかった。

 ふと、ドアの向こうがしずかなのに気づく。まさか別の部屋でまた悪さをしているんだろうかと、ドアを開けると、廊下で、うつぶして泣いていた格好のまま、眠っている。放っておいた。