お化け


 中庭の奥の小屋で暮らしていた頃だから、5歳より前に見た夢をおぼえている。
 夢のなかで母と私は夜の商店街を歩いていた。商店街は暗く、店も開いていない。じゃあもう帰ろうと、角を曲がると、どういうわけかそこはお化け通りで、ひとつめ小僧やろくろっ首が向こうからやってくる。細い道なのでお化けにぶつかりそうになる度、道の脇の看板や畳 (なぜか畳がたてかけてある) の後ろに隠れた。
 そうしながら歩いていると、ある場所に梯子がたてかけてあった。梯子の下には一本足の傘お化けがいて、「この梯子をのぼんなさい」と言う。すると母は梯子をのぼりはじめ、私は梯子をのぼる母を見上げた。梯子は終わりが見えないほど長く、母の姿もどんどん小さくなる。ふと不安になって「おかあさん」と呼ぶのだが、母は振り向きもしない。降りてもこない。梯子のずっとずっと上のほうに、小さく張りついたままなのだ。
 そのとき傘お化けがけたけたと笑い出し、もうどうしようもなく怖くなって、私は「おかあさん、おかあさん」と叫びつづけた。
 泣きじゃくった自分の声と、「どうしたの」という母の声が同時に聞こえて、目がさめた。

 子どもはパパの黒いTシャツで頭をおおって「おばけー」になる。洗濯物の山から引っ張り出したお化けの衣装は気に入ったらしく、またがってあそぶ車の座席のシートをあけると物入れになっているが、そのなかにしまい込み、ときどき車から降りては「おばけー」に変身して遊んでいる。