タトゥ


 晴れ。蒸し暑い。
 サインペンのキャップが出てきた。子どもが遊んでいてなくしていたやつ。汗ばむようになってくると、水性ボールペンでは皮膚に絵をかけなくなってきたので、最近はもっぱら油性サインペン。なかなか消えない。いれずみみたいだ。子どもの手の甲に、左手にぞうさん、右手にくるまにのったミッフィーちゃんと犬のスナッフィーの絵をかいてやるのが、日課のよう。

 以前にも似たようなことをしたことがあると、考えていて思い出した。ゴミの山の学校で、その頃まだ10歳になっていなかったG(女の子)が、「タトゥ(いれずみ)」だといって、自分の足にかいたらくがきを見せてくれた。それで私にもいれずみをしてやるという。デザインはどれがいいかと、ノートに花やハートや時計をかいたなかから選ばされた。あのときは足にかかれたんだったっけか。

 Gは生まれてすぐにごみ袋に入れて捨てられていたのを、ゴミ山でゴミ拾いしていた人たちに見つけられて、学校に運ばれた。それから学校の校長先生が養女にして育てている。生まれながら心臓に疾患があったが、6年前に手術を受けることもできた。はじめて会ったとき5歳だった女の子は、もう17歳の高校生だ。

 親が子どもを殺したり、子どもが親を殺したりのニュースがつづいている。そんなに一緒にいられないなら、殺さないで、捨てればいいのに、と思う。捨てる神あれば拾う神もあるかもしれない。Gのように、捨てられなかったら病気で死んでいたかもしれない命を、捨てられたために長らえることができたということも、あるかもしれない。

 子どもの手の甲には、ぞうさんミッフィーちゃんの絵。いま、この親たちと暮らしている日々に、きみの心に刻まれている絵は、どんなんだろうね。