「あるアイヌからの問いかけ」


 昨夜、NHKのETV特集は「ある人間(アイヌ)からの問いかけ─萱野茂のメッセージ」。子どもを眠らせながら、というか眠らない子どもの相手をしながらなので、とぎれとぎれにしか見れなかったけれど、『アイヌの碑』などの本では知っていたけれど、映像で見る萱野茂氏の存在感に圧倒された。なんというか、存在が思想なのだ。この5月に亡くなっていたことは知らなかった。享年79歳。
 アイヌ独自の言葉や文化を守るためにたたかった生涯。アイヌ民族初の元国会議員でもある。97年にアイヌ新法が成立したときの、国会でのアイヌ語の演説のことは、不覚にもはじめて知った。(テレビのない生活をしていた頃だ) アイヌ語で話す萱野氏の映像を見ながら心が震えた。その姿が、民族と言葉のなにかとても本質的なものを伝えていた。

 それからむしょうにアイヌ語が聞きたくなって、いま「ユーカラ」のCDをかけている。ユネスココレクションの「アイヌの歌~ユーカラの吟唱、他」。歌の途中に、歌っているおばあさんの咳払いや、笑い声や、歌い終わったときの「ふう」というため息なんかも混じって、素朴でほほえましい、お気に入りのCDのひとつ。久しぶりに聴く。

 10数年前、はじめて北海道に行ったとき、ある町の図書館で、テープに録音されたアイヌ語を聞いたとき、はじめて聞く言葉が、意味もわからないのに、とてもなつかしい感じがして、しばらく聞き入った。あのなつかしさは何なのだろうと思っていて、あるときCDを聴きながら気づいた。語りかける心がやさしくなつかしいのだ。
 歌われる物語の、生命のめぐりの輪のなかに、誘われてゆくこころよさ。言葉の意味はわからないけれど、語りかける心のやさしさはわかる。そうして私たちの日々の暮らしがそれを失っているかもしれないことも。