新しい朝


 子どもが、顔に水をちらしてやってきて「アンパンマン。あたらしいかおよー」と言う。アンパンマンは顔が濡れたら、ジャムおじさんが新しい顔をつくってくれるが、残念だけれど、ちびさん、きみの顔はもう取り替えできないよ。せいぜい洗ってきれいにしてください。新しい顔はなくても、新しい朝はくるから。

真新しいこの朝を
深呼吸する また深呼吸する。

 というフレーズを思い出した。気になって探してみる。
 尹東柱(ユントンジュ)の「朝」という詩の最後のフレーズだった。夏の朝の詩。(『空と風と星と詩──尹東柱全詩集』から)。
 詩人が、日韓併合時代に、留学していた日本で、治安維持法によって逮捕され獄死させられたことは書いておこう。美しい詩を書いた人は27歳で、異郷の獄舎で殺された。

   序詩

死ぬ日まで空を仰ぎ
一点の恥辱(はじ)なきことを、
葉あいにそよぐ風にも
わたしは心痛んだ。
星をうたう心で
生きとし生けるものをいとおしまねば
そしてわたしに与えられた道を
歩みゆかねば。

今宵も星が風に吹き晒らされる。

   『空と風と星と詩──尹東柱全詩集』伊吹郷訳

 学生の頃、釜山で知り合った日本語学科の女の子が、翌年日本に短期留学したときに、尹東柱の韓国語の詩集をもってきてくれた。原詩では、「生きとし生けるもの」は「すべて死にゆくもの」である。