花火の記憶


 巷は夏休みというので、夏休みらしいことをしようと思い、動物園に行こうと思って調べたら、ちょうどその日が休園日。去年行った某市の花火大会もそろそろだ、と思って調べたら、もう終わっている。昨日、近くの電力会社で住民サービスの夏祭りをしていて、ようやく出かけてきた。焼きそばとかき氷とビンゴ。子どもは模型のヘリコプターが飛ぶのを夢中で見ていた。

 5歳まで暮らしていた家は商店街の近くにあった。4歳ぐらいになると、近くの年上の子たちのあとをついて遊ぶようになり、よく商店街のほうにも行った。路上にゴザをひろげて花火を売っているおじさんがいて、そのおじさんが、ときどきいなくなることは知っていた。そういうときに花火を盗まれたらどうするのだろう、と思ってもいた。でも自分が、盗みの仲間になるとは思いもよらなかった。
 いつものように、何人かの子どもたちと一緒に、商店街に出かけると、花火のおじさんはいなかった。突然「はしれ」と頭上で声がして、誰かに腕をつかまれてひっぱられた。商店街の脇道を、山のほうに向かって、必死に走った。男の子たちが、花火を盗んだのだとわかった。
 山道にさしかかったあたりで、男の子たちは花火に火をつけた。きれいな花火が見れるのだと、少しはどきどきしたのだ。でも花火は、花火のようではなく、ただ白い煙がもくもくと上がっているだけだった。ひるまだからだめだな、と男の子たちは言っていた。そうか、ひるまはだめなのか、と思いながら、急速に気持ちがしぼんでいった。
 その日のことを私はだれにも話さなかった。そしてその日から、そのときの子どもたちと遊ばなくなった。彼らが悪いことをしたからというわけではなかったと思う。彼らが見せてくれた花火が、煙でしかなかったからなのだ。失望、という気持ちの、最初の記憶。