真夜中のトロリーバス


 昔、ソ連という国がまたあった頃、ブラート・オクジャワという詩人がいて、自作の詩を歌っていた。数年前に亡くなったが、『紙の兵隊』というCDが出ている。この数日、また久しぶりに聴いている。
 「真夜中のトロリーバス」という詩が、とりわけ好き。

沈む想いに克てそうにないとき、
絶望に襲われそうになるとき、
ぼくは青いトロリーバスに飛び乗るのだ、
終バスに、
偶然のバスに。

真夜中のトロリーバスよ、街を走れ、
並木通りを1周してくれ、
そしてみんなを拾ってやろう、
夜の悲しみに悶える人たちを、
夜の悲しみに。

真夜中のトロリーバスよ、ドアを開けてくれ!
知っているんだ、凍える夜中
お前の乗客──水兵さんたちが──
救いにきてくれるのさ。

何度もぼくは、悲しみから救われた、
ただ、肩を触れあうだけで……
沈黙の中には、なんと善意が満ちているのだ、
沈黙の中には。

真夜中のトロリーバスがモスクワを流れる、
モスクワは大河のように鎮まっていく、
そして痛みも、こめかみをずきずきさせていたが、
鎮まっていく、
鎮まっていく。