夜のバスの詩

図書館で借りてきた谷川俊太郎の詩集「東京バラード、それから」に載っていた詩。

  夜の雨の街

バスの窓の雨粒が
街の光に感応し
  赤
  青
  黄
TOKYO JAPANは新鮮である

バスの屋根をうつ雨は
トタン屋根の山荘の雨
  春
  夏
  秋
TOKYO JAPANは感傷の中に

夜の雨の街を走るバスの中で
僕は東京を紛失し
その上
しばし時をも紛失した
         1950.3.7



思い出したのは、ブラート・オクジャワというソ連時代の歌うたいのこと。
「紙の兵隊」というCDが、どこかに埋もれているはず。
そのなかにトロリーバスの歌があって、その詩が好き。
Булат Окуджава - Полночный троллейбус
http://www.youtube.com/watch?v=ZMREaIAsNNA


  真夜中のトロリーバス

沈む想いに克てそうにないとき、
絶望に襲われそうになるとき、
ぼくは青いトロリーバスに飛び乗るのだ、
終バスに、
偶然のバスに。

真夜中のトロリーバスよ、街を走れ、
並木通りを1周してくれ、
そしてみんなを拾ってやろう、
夜の悲しみに悶える人たちを、
夜の悲しみに。

真夜中のトロリーバスよ、ドアを開けてくれ!
知っているんだ、凍える夜中
お前の乗客──水兵さんたちが──
救いにきてくれるのさ。

何度もぼくは、悲しみから救われた、
ただ、肩を触れあうだけで……
沈黙の中には、なんと善意が満ちているのだ、
沈黙の中には。

真夜中のトロリーバスがモスクワを流れる、
モスクワは大河のように鎮まっていく、
そして痛みも、こめかみをずきずきさせていたが、
鎮まっていく、
鎮まっていく。