もちろんきみに

 もちろんきみに悪意はないし、畳の上に整列させたミニカーたちの上に、黄砂のようにさんしょうの粉をふりかけるのは、わくわくすることかもしれないし、カレーパウダーの缶をひとりで開けることができるのも悪いことじゃない。それが土砂崩れの道のように、台所から畳の部屋までぶちまけてあるのだって、もちろん、おかあさんを困らせようとか、何かあると互いに八つ当たりしあう両親にまたけんかをさせようとか、思ったわけではないと思う。きみはきみとして、毎日何かをして過ごさなければいけないわけで、きみはきみとして、いっしょうけんめい生きているのはわかるんだけれど、おかあさんがきみのコップに牛乳を注いだのは、きみに飲んでもらうためであって、パズルのひよこに牛乳風呂に入ってもらうためではなく、ましてその残りを畳の上にぶちまけてもらうためでもなく、もちろん、きみが牛乳をほしがったときに、それはきみが飲むためにほしいのか、ひよこの風呂のためにほしいのか、確認しなかったおかあさんが悪いのかもしれないんだけど、そんなこと、きっと、きみにだってわからなかったよね。だけど、台所のものを別の部屋にもっていって遊んではいけないと、どれだけ言ったらわかるんですか。流しに洗いものをためたままにしておくのは、もちろんおかあさんが悪いんだけれども、だからといって、たまった水をおたまですくって飲むのはやめてください。水道の水は冷たくないからといって、冷やすか氷を入れないと飲まないくせに、流しにたまった汚れたなまぬるい水なら飲むのは、きみ、なにかいいたいことがあるんでしょうか。
 子どもにふとんから蹴りだされて目がさめた。