遠い朝の

 中学校のとき、園芸クラブにいて、それは別に園芸が好きだったからではなく、ほかのクラブは運動系も文化系もいろいろすることがありそうで、なんにもしたくなかった私は、花でもみていよう、と思っただけのことだったが、夏休みを前にして、先生が言った。「夏休みの水やりをどうするか」。4人か5人しかいない生徒のなかで、学校から一番近い家は私だったので、夏休みの花壇の水やりをすることになった。
 夏休みなのに、とも思わず、毎朝、けっこう楽しく通った。授業のためにでなく学校に通うのは楽しいのである。時間も決められていない。集団行動もいらない。ひとりで誰に気をつかうこともない。早朝の花壇で、蜘蛛の巣を木切れでからめとったり、ホースの水の向こうに小さな虹が生まれてくるのを見たりしながら、その自由な気分が楽しかった。
 ときどき、あの遠い朝の気分のなかに、もどっているような気がする朝がある。