どんぐり

 子どもが、にわかに階段に興味を持ち、大小のボールを階段に並べたり、階段の上から投げて弾んで落ちるのを楽しんだり、危なっかしくてしょうがないのだが、それもこれも、トトロのせいである。どんぐりが階段を落ちてくる場面をやっているのだ。
 寝ていると腹の上にまたがってきて「あなた、トトロね」と言い、「トットロ」と、もうすっかりメイちゃんの声で、うっとりとあごまで撫でてくれる。かと思うと背中に馬乗りになって「ねこバスねこバス」と上機嫌。
 かと思うと何が気にいらないのか、「おねえちゃんのばかあ」と泣く。「知らないっ」と私は言いたい。
 
 どんぐり山、と呼んでいた。子どもの頃、裏山を私だけ勝手にそう呼んでいた。どんぐりがたくさんあるから、という単純な理由だが、それにしても、どうして子どもの目に、どんぐりは、あんなにいいものに見えたのだろう。食べることもできないし、なんにも使いようはなくて、たくさん拾ってもどうしていいかわからず、筒型の箱に入れたままにしておいたら、あるとき母に、これをどうするつもりかと訊かれて、答えられず、よく見ると、底のほうは紙も一緒に腐りはじめている。
 どんぐり一山捨てられて、それでもしばらくすればまた、しょうこりもなくどんぐりを拾っているのだった。
 
 昔、児童館で働いていた頃に紙粘土でつくった大中小のトトロを、飾り棚に入れておいたのが、見つかってしまった。トトロさんたち、無事ではすまないだろうなあ。