まっくろくろすけ

 子どもは、文房具を入れているカンカンの蓋を勝手にあけて、なかから油性サインペンを取り出して、紙に落書きをしていた。お絵かきしているなあと思っていたのだが、しばらくたっても、あまりしずかなので、見ると、足の指の爪を10個、真っ黒に塗っている。ちょうどペディキュアみたいに。親は手の爪も足の爪も塗ったりしないのに、どうしてそんなことを思いついたんだか。両方の足をそろえて「きしゃ、きしゃ、シッシッポ」という。ああそう、10輌連結の汽車ですか。
 黒く塗ったのは足の爪だけではもちろんなくて、足の膝下のあちらこちら、腕のあちらこちらも、手の甲も。とりわけ足の裏は念入りに黒く塗ってあって、これは、トトロのせい。まっくろくろすけが出たあと、さつきとメイちゃんが足の裏が真っ黒になっているのに気づく場面を、やってみせる。さらに、畳の上に敷いてるゴザにも落書き、はいているズボンにも落書き。すでにあちこち擦り切れかかっているゴザだし、お古のズボンだし(このあと、誰にもあげられないのがもったいないけど)、いいですけどね。
 こんなに自分をまっくろくろすけにして、手足のペンティングは、お風呂に入ったぐらいでは、落ちないなあ。
 
 もうすぐごはんだから待ちなさいといって、待ってくれる相手ではなく、冷蔵庫からシリアルや牛乳を出してきて、「これたべる」と言う。しょうがないので、すこし器に入れてやる。牛乳の残りがわずかだったので、あとで足してやるつもりで、しまわずに置いていたら、床にこぼされてしまった。あああ。雑巾で拭いていると、子どもが上から見下ろして、「おそうじ、たいへんですねえ」などと言う。ええ、ほんとうに。だれのせいで、たいへんなんでしょうねえ。