ヤモリの干物

 部屋がくさい。二階の、本棚と机とパソコンを詰め込んでいる作業部屋。はげしく不快、というほどではないが、何か臭う。窓をあけると、そのときは消えたようなのだが、気がつくとまた臭っている。汗の臭いのような、何か果物でも腐ったような、少し甘ったるいような、干物のような、と考えていて、ああ、あれかも、とようやく思い至った。
 二週間ほど前、夫が別の部屋で、ヤモリが干からびているのを見つけたのだ。部屋に入り込んだものの、暑いのと食べるものがないのとで死んだのだろう。かわいそうに。あんまりきれいなかたちで干からびているので、もらって、机の横の本棚に飾った。一応子どもが出を出さないように、上のほうに置いたので、そのまま自分も忘れていた。臭いは、あのヤモリの干物にちがいない。
 「千と千尋の神隠し」で、湯屋で働いているおたふく顔の妖怪たちの、好物だったのではないだろうか。ヤモリの干物。たしかに、もしかしたら、やみつきになってしまいそうな臭いではある。
 さて、本棚のヤモリの干物、食べる勇気はないので、庭の茂みに放った。ゆっくり土に返りなさい。部屋には、かすかに残り香。