つゆ草

 雨が秋を運んできたらしい。
 庭の金木犀の花が、ほんの3つほどだけど、咲いている。たぶん例年より2週間くらい早い。
 向かいの森の草はらは、たくさんのつゆ草。青い花の色が、雨にぬれてものすごくきれい。こんなにきれいなものの咲いているところに生きていることは、なんだか泣きたいことのような気がした。この世にあることは至福のことなのに、そう気づかずにいるということ。人身は受けがたし爪の上の土、人身は持ちがたし草の上の露、という言葉を思い出したりした。
 中学校の写生大会で、近くの神社の境内に行ったときも、つゆ草がたくさん咲いていた。(「世界の中心で愛を叫ぶ」の原作の小説で、主人公たちが待ち合わせをしていた神社だ。) つゆ草の青い色を見て、遠い山の色をこれで塗ろうと思いついた。それで指で揉んで画用紙にこすりつけたけれど、全然紙は染まってくれず、指の先ばかりが青く染まった。
 
 NHK教育の夕方のアニメ、「おじゃる丸」の原案者が、自殺したそうだ。まだ40代。仕事ができない、という遺書があったらしい。ああ。仕事なんかできなくていいから、生きるべきだよ。この夏、マクドナルドのハッピーセットは、おじゃる丸のおもちゃだった。子どもはマックもおじゃるも好きなので、ハッピーセットばかり頼んで、8種類のうちの6つまで揃ったのを、ヤモリの干物を飾っていた本棚の向かいの本棚に飾っている。子どもはこの部屋に入ってくる度、「おじゃる、おじゃる」といって、おじゃるのおもちゃと遊んでいる。小さい子、これから何があっても、きみは絶対に自殺なんかしてはいけない。豚になってもヤモリになってもいいから生き抜きなさい。