もの奪うひと

 臓器売買のニュースが私に思い出させたのは、故郷にいた頃に見聞した大人たちの景色だった。思い出すだけでため息が出る。
 人からものを奪いながら、奪っているとも気づかずにいるような、手におえないあつかましい人たちが一方におり、一方にはバケツの底が抜けているような、人がいいようなだらしないような、求められるとないものまで差し出さねばならない気がして、あれこれの面倒を起こしてしまう人間がいるのである。ギブアンドテイクなどという近代合理主義以前の、なんともいいようのない人間模様があるのだった。今度の事件もおそらくそんなところから出てきたんだろう。
 そういえば中学や高校の頃、おまえみたいなやつはろくな大人にならん、と言われるたびに、だれがあんたたちに気に入られる大人になんかなるものかと思っていた。いたるところに地獄が口を開いているなあ、と思いつつ、私は不機嫌な子どもだった。愛憎ぐちゃぐちゃのふるさと。