新しい靴

 子どもの靴、もう小さくなってきて、これで3足目、新しいのを買った。
 1足目の靴は、よちよち歩いてみただけ。ぐすぐず泣きながら親のあとをついてきた。
 2足目の靴はずいぶんいろんなところへ行った。かってに走り出したり、おもちゃ屋のおもちゃの前に立ちつくしたり。じだんだ踏んだり。
 数日前に山口でスーパーにいったときは迷子になって、ママーママーと泣きながら店じゅうを歩いていた。(その後ろからパパがついて歩いて、ときどき鼻水を拭いてやっていたらしい)。
 3足目の靴は、どんな経験をするんだろうか。
 
 小学校4年のときだったと思う。遠足で、バスに乗って、泉が森、というところへ行った。山のふもとでバスを降りて、山道をてくてくのぼっていった。帰りも山のふもとからバスに乗るはず、だった。だが、山を降りたとき、私たち10人ほどだけが、違う場所へ出てしまったことに気づいた。違う道を降りたのだ。前を歩いていた子が左の道を降りたのを覚えている。なのになぜ、私は前の子のあとをついて行かず、確信をもって右の道へ踏み出したのだろう。私の後ろで、右だ、左だ、と言い合う声がしていたが、そんなことおかまいなしに、私は右の道をどんどん降りた。結局10人ほどが道に迷った。見知らぬ景色のなかに降りて、自分たちの町はどの方向かと、道ゆく人にききながら、田んぼや畑が日にきらきら輝いている田舎の道を、迷子の10人ほどはてくてくてくてく歩いた。歩くしかないので、ひたすら歩いた。やがて町にたどり着いた頃、血相を変えて私たちを探していたらしい先生に見つかって保護された。
 遠足の帰りに私たちは道に迷ったのだけれど、そのきっかけが、私であったかもしれないことは、なぜか、何年もの間、気づかずにいた。あのとき私が前の人のあとをついて歩いていれば、誰も道に迷わずにすんだのに。
 私は買ってまもない新しい靴を履いていたのだったけれど、家に帰ると、靴の裏は擦り切れてつるつるになっていた。